第1章 彩華。
「あぢぃ」
「⋯⋯」
美少年の何度目かの気怠いそのつぶやきに旺季は何度目かのため息をつく。
監察御史としては頗る腕はいい、が、如何せん外仕事が無いとこうして茹だる人形だ。
顔がいい事もあり、後見人が旺季であることから見合いの姿絵を常に小脇に抱えるのが名物化していた。
あだ名は「絵姿の縹官吏」
白く透き通る肌、黒く輝く髪の毛、中性的な体つき、物腰の優しい声音。
「千代、そのだらしない態度をどうにかせんか」
「あら、叔父上こそ、汗が額を伝ってますよ」
「⋯~!千代!!」
「はははっ」
この白けた部屋の癒しの声だった。
陵王が顔を出すといつもの窶れた友と明るく笑顔を振りまく男。
「千代、王が呼んでるぜー」
「はははっは?えっ、陵王様今何と申されましたか?」
「よう元気そうだな、小脇に姿絵の美少年!」
「⋯叔父上のせいです。そんなことより先刻なんと?」
「お前の大嫌いな戩華王がお呼びだと、さっきこの姿絵を渡してきた奴が言ってたぜ」
ほれ、と姿絵を投げられ大事に机に仕舞うのを見て呆れた。
こいつはコレクションでもしているのかと思いながら、千代を見ていると部屋の空気が氷点下になった気分になる。旺季は眉間を寄せた。
「王が私等に何用で?」
「それは王のみぞ知るってな」
「⋯⋯はぁ」
千代は徐に眼鏡を取り出しかけると、殺気を纏う。お前は戦に出るのかと旺季と陵王は思ったが口には出さなかった。ハラハラとする旺季だが、千代は旺季の前で頭を下げる。
「王の御前に行ってまいります」
「あ、あぁ」
「行ってまいります」
なんと掛けてほしいんだお前はと、陵王は思っていると千代の手が微かに震えているのを見てしまう。
「すぐに戻れ」
旺季の一声に嬉しそうに返事をして部屋を後にしていた。
「あいつ、何で王様嫌いなんだ?お前の躾が良かったのか?」
「そんなモノでは無い、天の邪鬼なだけだ。千代はな」
似た者じゃねぇか?と思いながら千代の席に座り先程姿絵を入れていた引き出しを引っ張る。
ぎっしりと家柄夫婦の名前、役職を記されて仕舞いこまれている姿絵を見てゾッとする。あいつにとって姿絵さえも手札に変わるのかと。