第8章 彩火。
その満足感は愛や恋を向けられない戩華には充分なものだった。
「熱いな」
「⋯左様ですか⋯⋯私にはわかりません」
眉を垂れてか細く呟く。
大分熱が高い。
こういう時は少し甘えてくるから戩華はほんの少し心待ちにもしていた。
「千代、俺と少しだけ此処を開けるか?」
突拍子もない事に慣れている千代だが、流石に驚く。ぱちくりと瞬きをすると戩華はにたにたとする。
「劉輝の子守等、栗花落でいいだろう。」
「それは⋯んっ!」
もう聞きたくなかった。
こうして、2人きりの時間が増えたというのに栗花落様と栗花落様にと言う千代にもうんざりしていた。
そろりと惜しげに唇を離すと、また口を開くから唇を寄せるとぱくりと、開けた口を閉じた。
「劉輝の我儘に付き合う割に俺は放置というのは気に入らない」
「⋯⋯それ、はっ!」
一度でいい、この娘が、妾共のように従順にただ俺を待ち哀れに焦がれたらいいと。
思っても、きっと言っても、心まで本物は与えられない。
「お前がこれ以上劉輝にしてやれることは無い、それはお前が一番わかっているだろう?」
「⋯⋯⋯はい」
「子離れするいい機会だな 」
あとはもう1人、厄介な方の子供を思い出しながらももう一度口付ける。
真っ赤な顔なのは熱が上がっているせい。
愛おしげに妃は見つめてはくれない、それでも構わない。
その瞳を自分だけを捉えていてくれるなら。まだ、満足できる。