第8章 彩火。
千代が部屋に戻ったのは日が沈む前だった。
疲労困憊と言う様子だった。
戩華にお茶を入れて夕食こちらで済ませますか?など甲斐甲斐しく世話を焼くが、戩華はただただ、朝の件を根に持っていた。
千代は気にも止めず、ただ窓の下に座り書物を読んでいた。
小さな子供のようだと思いながら、何も弁解しない妃にムッとしていた。
「劉輝は何のようだった?」
「大したことではありませんよ」
察しはついた、王様やりたくなーいの話だろうと。当然だ、アレは向いていない。
優しすぎる、人を深く愛する子だ。
あれより、清苑のがまだいい性格をしていた。だが、この妃は劉輝と言った。
それが少し気になった。
「何故劉輝だった?」
その問には書物から目を離し、含み笑いを見せた。彼女がそう、表情を変えるのは珍しい事だったから。目が離せなかった。
「戩華、劉輝は貴方が幼い頃に叔父上を使って脅かした事を今も怖がっているのですよ。あの子は人の命の重みを、誰より知っているのです。殺すという概念は彼には無いのですよ」
その言葉を聞いてようやく納得が出来た。
成程。
そればかりは、清苑や自分にはできなかった事だ。
その考えさえなかった。
殺さないなんて、甘い考えあいつしか持てなかったと。
「それでお前はアイツをどう説得したんだ」
「あの子は、王が孤独という事を知っているんです。理解はしてはいないでしょう、けれど、誰より孤独を知っているあの子は大切な者にその場所を譲りはしません、あの子は誰より優しい子ですから」
「⋯は、お前は魔女か」
「あら、貴方でも外朝のお噂にも耳を傾けるんですね」
「ふんっ」
誇らしげに微笑むから。
ただ、見つめるだけで、見つめられていると言うだけで怒りや不満が収まる。
ふと、視線が書物に戻ると彼女はうつらうつらしはじめる。
朝から体調が優れなかったのか、疲労なのかは戩華には分からなかった。ただ、知っていることもある。
彼女はその場所に座り込んだら自らの足では動かない。
戩華が何か言えば動くが、それ以外絶対に動かない。だから、床から起き上がり千代を迎えにいく。
栗花落も知らない、二人の習慣だった。
そろりと、千代を抱き上げると戩華を見つめ肩を預ける。