第7章 彩駆。
窶れていた。
ボロボロだった。
その娘を救いに来たのはただ一人。
王と日々戦うばかり。
ただの抜け殻の様な娘は久しぶりに顔を上げて涙を流した。痛むように悲しみを、当たり前に悲しむように、我が子を憎み、悲しんでいた。
姉が乳母を探し歩いて居ると聞いた時はぎょっとした。だが、問題はそれ以上に深刻だった。
妃は、見るからに憔悴していた。
痛々しい微笑みに抱き締めずにはいられなかった。あの王が苦しめる最たるに思えて。
姉上も苦しめられたろうに、この小娘は⋯解っていて、二人の気持ちを知っていて王の気まぐれで妃につかされた。
何て苦しく、辛いことか。
自らは愛を与え続けた。
愚かなあの王を護るために。
「旺季様、どうか、あの娘の名付け親になって下さい⋯私は愛せはしません。我が子等と考えるだけで気持ちが悪いのです。私に注いでくださる優しさをあの娘に与えてください⋯私は、ただただあの娘が憎らしいばかりなのですよ」
知っていた。お前はそれでも、それでも!赤子を愛している事を。けれど、愛せない事を。
「私は少し疲れてしまっているようですね」
無理をするばかり。
何故そこまでする。
そんな馬鹿らしい言葉が浮かんで消えた。
そんなもの、当たり前だ。
あの、馬鹿な王を。
愛しているから。
ただ一人の男としてちゃんと見ているから。
それを栗花落姉上の手前認めはしないだろう。
「王はお前の何を見ている」
「⋯戩華王はちゃんと、理解しています。だから、私は妃なのでしょう?栗花落姫様と王の気持ちを理解しても尚私は彼の愛を望まない、それが私が望んだ私に出来るただ一つの愛し方ですから」
何度怒鳴っても足りない。
そうではない、あぁ、姉上はきっと何度も心の中であの王に思っていたのだろう。
がくりと、膝をつく。
千代を見て微笑む。
「千代、私に主上に手をかけさせるな。主上に愛してもらえ」
それだけで、あの王を見直せる。
可愛い可愛い娘が愛されているところを見るなど、不愉快で⋯きっと、諦めもつくことだろう。
悲しげに眉を下げて、頷き言葉をこぼした。
「意地悪ですね⋯」
両方を欲しいという貪欲が移ったんだと言えば、気が抜けたのかふわりと微笑み眠りにつく。
膝にしがみつく千代は愛おしく思えた。