第21章 書き換えられる記憶
「じゃあ済まないけど、自宅待機ってことにしようか」
「ああ、それで頼む」
「いや、いいんだ。好きなだけここにいていいから、その胸につかえてるモヤモヤとしっかり向き合うんだよ」
「うん。ありがとう」
ふわり、と自然な笑みを浮かべたに思わず見惚れる名取。こうして彼女の自然な笑みを見たのは初めてだった。
「…初めて笑ってくれたね」
「え?」
「私が見る君の表情はいつも悲しそうだったり浮かないような表情だった」
「そうだったか?」
「そうだよ。笑うとなかなかいい顔になるじゃないか」
尚もよく分からないといった顔をする妖姫に苦笑しながら彼女の頭を撫でた。
(あ…)
ふわり、と撫でる名取の手つきは的場とはまた違っていて。
それが心地よくない訳では無い。でもどこか違うその感覚に胸が少し痛んだ。
(主…今頃どうしてるかな…)
心配してくれていたりするのだろうか。それとも何事も無かったようにしている?
自分で飛び出してきておいてとは思うが、やはり彼が恋しくなる。
「妖姫、とりあえず今日は休もう」
「そうだな、こうしてても答えが出るわけじゃない。紅月」
今となっては相棒となった白銀の狼の名を呼べばスゥ…と姿を現した。
「どうした?」
「紅月、申し訳ないんだけど今日一緒に寝てくれる?」
「構わん」
「ありがと、紅月」
夜中、ふと自然に目が覚めた。
水を飲みにキッチンへ行くとベランダに視線が惹き付けられた。
窓を開ければ夜独特の冷えた風がふわりと吹き抜ける。肌寒さを感じながら、それでも導かれるかのように足は自然と進み。
気づくと目の前に見たことも無い妖がいた。
「!?」
「お主には忘れたい記憶があるか?」
「ぇ…?」
忘れたい、記憶…?
「脳裏から消してしまいたい記憶、忘れたいのに忘れられない記憶。お主からはそんな香りがする」
脳裏から消してしまいたい記憶。
その言葉に真っ先に過ぎったのは、家出をした原因となったあの光景。
「"その胸の痛み"、我が忘れさせてやろう」