第21章 書き換えられる記憶
翌朝、目が覚めると見慣れない天井が視界に入った。
(あれ、私…)
微睡む思考で手繰り寄せるのは眠る前の記憶。そして嗚呼、と納得した。
(そうか、結局帰らずに名取の坊ちゃんの所に厄介になったんだった)
幸い今日は学校は休み。名取が式を飛ばしてくれてあるから、すぐに帰らねばならない理由はない。
今はまだ、彼に会う気になれない。
(でも、いつまでもここで厄介になる訳には行かない。私自身腹括らないと)
だが、もう少しだけ…。気持ちを整理する時間が欲しかった。
あの人が自分だけを見てくれているものだと何時の間にか自惚れていた。人の心とは良くも悪くも変わりゆくもの。主から向けられる愛情を、知らぬうちに当たり前のものと思い込んでしまっていたのだろう。
好いた相手だからこそ、あの様な場面を見てしまった時の衝撃はやはり大きなものだった。
正直忘れてしまいたかった。思い出しても胸が苦しいだけで気持ちが晴れることはない。しかし、忘れたくとも強く脳裏に残っているのか、すぐに消すことが出来ない。
はぁ、とひとつため息を零すとテーブルの上に何か置いてあることに気づいた。テーブルの上にはラップをかぶせてある皿がひとつ。
「サンドウィッチだ…」
皿を取ると、その下からカサリと何かが落ちた。
どうやら置き手紙らしいそれには、恐らく名取の字で殴り書かれていた。
"急な事だったのでこれくらいしか用意できなかったが、朝食として食べてくれ"
「なんだか申し訳ない…」
明日には帰らなければと頭の片隅で思いながら用意された朝食に手をつけた。