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的場一門の妖姫

第19章 葛藤する心


カヅチの1件から数日、私はどこか上の空だった。
何をしても集中できない。まるで心にポッカリと穴が空いたみたいだった。
もっと何かしてやれたことがあったのではないか?カヅチの心は救われたのだろうか?
納得はしてくれたのだろう。でも心は?彼はヒナギクへの強い未練だけが残って辛うじて存在していた状態だった。いつ消えてもおかしくないくらいだったのだ。
(カヅチは…本当にあれで良かったの…?)
見つけたと思ったら既に他界していたヒナギクさん。あの時、カヅチはなんと思ったのだろう。
心の内など当の本人しか分からない。でもこれまで的場の元で生きてきて、妖と向き合ったのはカヅチが初めてだったのだ。
妖に寄り添い、残した想いを果たす手伝いをする。カヅチの場合は行動できる範囲が制限されていたから尚更誰かの手を借りねばどうにも出来なかったことだろう。
(主だったら…どうしてたかな)
もっと上手くやっていた?式神にしていただろうか?再度封印していたかもしれない。
(どちらにしろ、主のことだから妖の未練を果たすなんてことはしないんだろうな)
普段の的場静司という人間はそういう人物だ。冷酷で、目的のためなら手段は選ばないという時もある。利用できるものは利用する。
…私のことは、最初は興味本位だったのかもしれない。現代じゃ「人と妖が結ばれる」なんてごく稀なことだ。そもそも"視える"人間がそこまで多いわけではないのだから。
「ねぇ紅月」
『なんだ』
「カヅチは…向こうでヒナギクさんに会えたかな」
『さぁな。故人のことなど気にしても仕方ないだろう』
「そっか。会えてたらいいなぁ…カヅチとヒナギクさん」
今は亡き2人を思い、何となく見上げた空はどこまでも青く澄み渡っていた。
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