第18章 色褪せぬ想いは大空へ消えゆく
1時間ほど泣いたあと、は的場邸へと帰ってきた。
空は日が落ち、藍色と橙色のグラデーションがかかっていた。
「おかえりなさ――どうしたのですかその目は」
「…あるじ」
的場邸の入口まで少し覚束無い足取りで向かうと婚約者が待ってくれていた。
私にはこうして帰りを待ってくれている人がいる。でも、あの小さな神様を待っていてくれる相手は既にいなくなっていた。
「あるじっ」
私は主の胸に飛び込んだ。抱きとめてくれる腕の中は暖かくて、優しくて、また込み上げてくる想いを感じた。
いつの間にか待っていてくれる人がいるということが当たり前に感じてしまっていた。何より的場一門の頭首である的場静司は常にとある妖から狙われているという危険が付きまとっているのだ。いつこの当たり前が壊されるともわからない。
そうなった時、私はどうするのだろうか。
悲しみのあまり彼のあとを追うか。はたまた一門に利用されるか、それとも――。
「そんな泣き腫らした顔では家の者に見せられないでしょう。今日の夕飯は私の部屋でとりましょうか」
そう言いながら的場はの顔が隠れるように着物の羽織を掛けてやり、彼女を横抱きにした。
「あるじ…ごめん…。ごめんなさい…」
「話は後でゆっくり聞きます。まずはその目を冷やしましょう」
慕う人の香りに包まれ、心地よく揺れる腕の中でいつしかの意識は色々な疲れもあってゆっくりと暗闇へ落ちていった。
今回の出会いと別れはの中に何を残していったのか。
腕につけられた黄色い石がキラリと静かに光を反射していた。