第17章 思い出を辿って
「ここか…」
あの後、頑張って説得して許可を得た私は今隣町にあるという「宮原日向菊」という人物の家を訪れていた。
情報収集を重ねていた中で、恐らくヒナギクさんであろう人が随分と前に体調不良の為隣町に移ったという話を聞いたのだ。恐る恐るチャイムを鳴らす。
「どなた様?」
「あの、私の祖父が最近亡くなりまして、宮原日向菊さんとお知り合いだったそうなんですけど…住所がわからなかったのでこうして訪ねさせて頂きました」
「はぁ…」
明らかに訝しまれているが仕方ない。この短期間で自宅に辿り着いただけ誰か私を褒めて欲しい。
「生憎だけど…母はもう10年も前に亡くなっているのよ」
「え…」
「母はね、幼い頃から病弱で入退院を繰り返していたらしいの。それで通院のために隣町からこの町へ移住したって聞いてるわ」
「そう、なんですか…」
まさか探し人が既に亡くなっていただなんて。これではカヅチの目的が果たせない。どうしたものか…。
「そういえば貴女のお爺さんはなんて名前なの?」
「あ、カヅチです。…武カヅチ」
そう教えると彼女はハッとしたように軽く目を見開きちょっとまってて、と言い残して家の中に入っていった。
『しかし大きい屋敷だな。的場邸もだが、この邸宅もなかなかの広さと見える』
「…そうだね」
今まで黙っていた紅月が唐突に口を開いた。確かに彼の言うとおり結構広い敷地面積であることが伺える日本家屋だ。周りを見渡しながら視界にカヅチを捉える。俯いてしまっていて表情は伺えないが、明らかに気持ちが沈んでいるのはみてとれた。
「お待たせ!母が"カヅチの関係者が訪ねてきたら渡して頂戴"って言っていたのを思い出したの。これよ」
そう言って渡されたのは一通の封筒だった。中には恐らく手紙が入っているのだろう。カヅチに宛てた日向菊さんからの手紙が。
ありがとうございますと告げて一言謝罪し、私たちは宮原家を後にした。
近くの開けたところへ移動し、封筒の中の手紙を確認すると、そこには――――。