第16章 御槌(ミヅチ)の大妖
翌朝。
朝日の光で目が覚めた。まだ眠気の残るハッキリしない頭でゆっくり目を開ける。すると目の前には見慣れない光景が。
「おはようございます」
「…ある、じ?おはよー…」
好きな人の優しい笑み。自然とこちらもふにゃりと破顔していた。頭を撫でてくれる優しい温もりに、は猫のように擦り寄っていた。
「ふふ…今朝は随分と甘えたですね?」
「んー…」
寝起きにかけられた声は愛しいものを愛でるかのようで。まさに夢心地だった。――意識が覚醒し出すまでは。
(…ん?ちょっとまて。なんであまりにもリアルな主が私の部屋に…)
と、そこまで考えて昨晩のことを思い出した。
(そ、そうだ!昨日眠れなくて主の部屋の前まで来て…それで…!)
意識が覚醒し、体が固まった。
「ご、ごごごごごめんなさいいいいい!!」
とんだ失態を犯してしまったと思い、飛び起きて土下座の姿勢で早口に謝罪した。
「その、昨晩は変な夢を見たせいでなんとなくあそこにいたんだ!」
「変な夢…ですか」
「そう!詳しい内容までは覚えて…ない、けど…」
「?」
(あ、れ…?)
夢の内容を覚えていない。
なぜ?あんなにも共感したではないか。思わず涙を流してしまうほど。
けれど、あの夢を思い出そうとしても靄(モヤ)がかかったように詳細を思い出すことは出来なかった。
(なんで…)
疑問には思ったが、彼女はハッとあることに気づいた。
「いっ今何時…っ!」
「まだ6時ですよ。安心なさい」
「そ、そうか…。本当にすまん!それじゃ!」
そう言って脱兎のごとく的場の自室を後にした。
少し離れたところで七瀬が走るんじゃないと軽く叱る声が聞こえる。
「……」
的場はが去っていった方を暫く見つめていた。
(…少し、探りを入れなければならないか)
彼女に限って背信行為などないだろうが、念の為ハッキリさせなければならない。
「全く…こればっかりは嫌になりますね。彼女さえ疑わなければならないとは」
しかし、彼の嘆きに反応する声はなかった。