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的場一門の妖姫

第15章 新しい友人、自覚した想い


以前、捨てられるかもと不安になった時主は優しく抱きしめてくれた。
『いかないで…ヒナギク…』
どうやら、相手の名前はヒナギクというらしい。
――いかないで…パパ…ママ…
一瞬、幼い頃の自分と重なった気がした。

目が覚める。
目元が濡れていることに気づく。いつの間にか泣いていたようだ。
「外…まだ暗い…」
傍らの時計に目を向けると、針は午前2時を指していた。
このまま寝ても寝付ける気がせず、寝間着用の和服用の上着を羽織り自室を後にする。
そして向かったのは的場の部屋の前。こんな夜中に起こすのも申し訳ないので部屋の前まで来て縁側に腰を下ろした。
夜空には無数の星の光、そして辺りを優しく照らしている月。
はなんとなしにぼーっと月を見上げる。
「どうかしたんですか?」
「…あるじ」
物音ひとつしなかったから驚いたが、知らぬ間に的場が背後に立っていた。
「悪い、起こしたか?」
「いえ。…眠れないのですか?」
「うん。ちょっと、夢見悪くてさ」
「そうですか。どうです?たまには一緒に寝ますか?」
「え…」
思いがけない的場からの誘い。
そういえば昔は度々共に寝ていたこともあったが、いつの間にかそういうことはしなくなっていた。
「…じゃあ」
ここは素直に甘えることにした。どうせこのまま戻っても朝まで寝付けないだろう。
2人して布団に入ると、元が1人用の物のため少し狭かったが暖かかった。
(近い…)
いつもより近い距離に早まる鼓動。しかし、彼の傍は自然と気持ちを落ち着かせてくれる。
(そっか。私、主のこと一人の人間として…1人の異性として好きなんだ…)
不思議と重くなってゆくまぶたを重力に従ってゆっくりと閉じ、そして同時に自分の中の気持ちに明確な名前をつけられた。
彼女はそのまま心地よい微睡みに沈んでいった。


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