第10章 少女の本心と狼
『いや何、ひとつ忠告しておこうと思うてな。我としてもこの娘…主に消えられては困る故、な』
"消える" その言葉に、的場は嫌な予感がした。
『とは、半妖故に存在自体が曖昧な存在だ。何かしら自分を強く否定するような事があれば存在自体が消えかねない』
「存在自体が…消える…?」
『主を探している時、主の気配が薄くなっているのを感じていたはずだ』
確かに、あの時はの存在が消滅してしまうのでは?だとか気配が薄れていくのは感じていた。
すると、狼は一息ついて更に続ける。
『…小僧、我が主の本心を考えたことはあったか?』
「の本心…?」
『主はずっと迷っていた。このままここにいてもいいのか、それともいずれは出ていくべきなのか。本人は無意識だったようだがな』
「そう、ですか…」
思わぬ形で知ることとなったの本音。
『まぁ、より詳しいことは主に聞け。我から言えることはただ一つ、大切にしているだけではいずれ取り返しのつかぬことになるぞ?それを肝に銘じておくんだな小僧』
それだけいうと、狼は姿を消し静寂が部屋を支配した。
「取り返しのつかない事になる、ですか…」
わかっている。
大切にしているだけでは駄目だと頭ではわかっているが、彼女から笑顔を消してしまうようなことになったらと思うと、どうしても躊躇してしまう。
(私はいつからこんなにも臆病になってしまったのでしょうね…)
ふと思う。の笑顔を最後に見たのはいつだったか。
(嗚呼、そうか…)
私はに向き合おうともせず逃げていたのか。
そっとの頬に片手を当て、呟くようにいう。
「…私に、貴女と向き合う時間を下さい。もう、貴女から逃げたりなんてしません」
そして、的場はただ触れるだけの口付けをした。