第8章 すれ違う心
一方、七瀬からが失踪したと連絡を受けた的場は交渉中だった商談を打ち切り、急いで的場邸へと戻ってきた。
「七瀬!が失踪したとはどういうことだ!?」
「私にもその理由はわからないんだ!ちょっとした相談を受けて、見回りを済ませて補充類で不足したもののおつかいを頼もうとしたら部屋が蛻けの殻で…」
「相談…?」
「ああ。なんで養子じゃなく婚約者にしたのか、お前の事がわからないって」
「それでなんて答えたんですか」
的場の質問に七瀬はバツが悪そうにこたえた。
「…恐らく縁談避けなんじゃないか、と…」
「何故そんな回答を…」
「何も知らない側からしてみれば、的場があの子を婚約者にするなんて縁談避けくらいしか思い浮かばないだろう」
否定したいところだが、実際彼女らには詳しい事を話していなかったと気付き、否定の言葉を飲み込んだ。
「…そうですね、私の不手際でした」
そういうなり的場は傘をもって再び外へと出ていく。
「を探してきます。何かあれば念話飛ばしてください」
の気配を辿りながら、的場は森へと向かってゆく。
(どうか無事でいてください…)
気配を辿り、やがて的場は違和感に気づいた。
「の気配が…」
弱く、薄れてきている…?
しかし、そんなはずはないと思いたくとも森の奥に行けば行くほど彼女の気配は弱くなっている気がする。
そして的場の中である仮説が浮かぶ。
半妖であるは謂わば、曖昧な存在。何かしらで自分の存在意義を見失うようなことがあれば、存在ごと"消失"してしまうのでは、と。
「急がなければ…!」
薄れゆく気配を必死に辿り、先を急ぐ。
どうか消えないでくれと願ながら。
‡続く‡