第5章 微かな変化
翌日。
的場の「婚約者」発言のせいで色々とぐるぐる考えてしまって結局一睡もできなかった。
(しかし何故よりにもよって"婚約者"なんだ?他にもあっただろ。例えば…)
今まで親代わりの様に面倒を見てくれていたのだ。ならば婚約者とせずとも何かあった筈なのだ。そう…例えば養子とか。
(養子…)
養子。親子。そこまで考えて、は胸のあたりがチクリと痛むのを感じた。
(なんだ…?)
起きて胸のあたりを見ても外傷など全くない。は不思議に思いながらも、傍らの時計を見て学校の支度を始めた。
若干ぼーっとしながら登校していると、いつの間にか教室まで来ていたようで、まだ数名しかいない室内に足を踏み入れる。
(そういえば…たしか夏目とか言ったか?"素質"のある…)
昨日、その名前に引っ掛かりを覚えて名前も記憶していたようだ。確かフルネームは夏目貴志。
彼の席を見遣れば、机に突っ伏していた。自席である隣の席へ行き、夏目に声をかけてみる。
「おはよう夏目くん」
精一杯の猫を被って。
素で笑顔だとか敬語とかは性格からして猫でも被らない限り無理だと自分がよく分かっていた。所詮は上辺だけの関係なのだから、素の自分を見せるようなことはしたくない。
すると、のそっと顔を上げ、彼は少し戸惑ったようにおはよう、と返してくれた。
「…疲れてるみたいだけれど大丈夫?」
ここで、は夏目を試した。この質問の返答を聞くまで妖化し、視えるのかどうかを試した。
「あ、ああ…。まぁちょっとな…」
曖昧な返答。しかし、にとってはこれだけで充分だった。