【HQ】岩ちゃんが男前過ぎて今日も私は死にそうです
第2章 女の子
家に帰り着いてからも、思い出すのはあの試合風景。必死にボールを追い掛け、繋がれたボールに掛けられた思いを背負って打たれるスパイク。コートの中では小柄な部類に入るであろう岩ちゃん。けど、ボールに合わせて跳ぶ岩ちゃんはそれを微塵も感じさせない。岩ちゃんなら必ず決めてくれるというチームメイトからの信頼がコートの外から見てもひしひしと伝わってきた。バレーが一際好きだとかそういうワケじゃない。スポーツに関してはどれも同じ位好きだし、得意だ。けど、あの試合を見てるその瞬間だけは、私の中で、バレーが他のスポーツとは違う特別な物に変わったような気がした。
「私もちゃんと一年の時から何か部活やっとけばよかったな…。」
スポーツ全般が好きで、得意で、どれか一つに絞る事が出来なかった。だから、たまに呼ばれる助っ人という立場に頗る満足していた。けど、年を重ねる毎に、それに青春の全てを捧げてきた部員達との圧倒的な思い入れの差を感じるようになっていた。一つの事に熱中しきれない私は、それが少しだけ羨ましかった。けど、それに気付かないふりをして、ただ目の前にある楽しみにだけ目を向け、私は何とも向き合おうとしなかった。
「あー!こんな事考えるなんてらしくない!ちょっと走ってこよ!」
椅子にかけっぱなしだったジャージを羽織り、いそいそと階段を降り、靴に足を通す。
「ちょっと郁今から出掛ける気!?」
「なんか、わーってなって、がーって感じだからちょっと走ってくる。」
「外暗いんだから、直ぐに帰ってきなさいよ?」
普通だったらこんな時間に女の子が一人出歩くなんて、と親なら止めるんだろうけど、言って言う事を聞くような娘じゃないと分かっているお母さんは外出を止めようとはしなかった。
「郁、出掛けんならついでにアイス買って来い。」
「それが人に物を頼む態度?絶対イヤですー。」
「それがお兄様に対する態度か?」
「可愛い妹を使いっパシリにする奴を兄貴だとは思いませーん。」
「可愛い妹?そんなの何処にいんだよ?逞しい弟の間違えだろ?」
お兄ちゃんとの言い合いはヒートアップし、お母さんに背中を押され、そのままお兄ちゃんと共に外に追い出された。