第4章 日露2大怪獣・ゆ~とぴあの決戦。
風呂から上がったユーリは、同じく戻ってきた勇利と一緒に彼の部屋へ行ってしまったヴィクトルを見送った後で、ひとりロシア語と日本語の書類を纏めているらしき純に近付いた。
「よくそんなに色んな国の言葉が判るな」
「うーん、自分でもよう判らんのやけど、スケートの才能よりかは恵まれとるみたいや。自分の好きな国や人を知るには、その国の言葉を覚えるのが一番とも言うしなあ」
時折辞書を捲りながらタブレットを操作する純の穏やかな横顔をユーリは暫く見つめていたが、やがて何かを決意したように彼に呼びかけた。
「頼みがあるんだけど」
「僕に?何かな?」
「えっと…」
胸の前で握られた手をモジモジさせていたユーリは、やがてボソボソと続けたが、直後眉根を下げながら断りの返事をしてきた純に、愕然とした。
「何でだよ!?」
「ああ、堪忍。けど、意地悪で言うてるんやないで。それは僕からは教わらん方がええっちゅう事や。その代わり、君の希望に添えられる人を別に紹介するから」
理由を話してユーリを落ち着かせた純は、スマホから自分のSNSに繋ぐと、ロシアのピーテル(サンクトペテルブルク)界隈に居住している何人かの知り合いにメッセージを送った。
「せやけど、どうした風の吹き回しなん?」
「に、日本はフィギュアスケートの人気が高いだろ?日本のファン開拓と、それに伴うサービスの一環だ!あと、敵を倒すには敵の事を知るのも大事だしな。あの豚を今度こそ完膚なきまでに叩き潰すのにも好都合だし!」
「…それだけ?」
重ねて質問されて、ユーリは言葉をつまらせると仄かに顔を赤くさせる。
そして、「ジジイに内緒であいつと話が出来たらな…って、思わなくもないっつーか…」と今にも消え入りそうな声で呟く姿が余りにもいじらしくて、純は嫌がるのも構わずユーリの身体を抱きしめた。
【エピローグ】
ユーロ選手権で優勝したヴィクトルに続いて、四大陸選手権では、カナダのジャン・ジャック・ルロワを僅差で上回り優勝した勇利の姿を見て、世間は師弟の強さとその絆について褒めそやしていた。
「自分達の決断に誰も文句を言わせない」というのもだが、これまで理解していたようで知らなかったスケートに対する新たな想いが、2人を突き動かしていたのである。