第1章 それは突然に
パチリと目を開けると、目の前はもっふもふでした。
私はその時、とても混乱していた。
そりゃそうだ。
いや、私の記憶が正しければ、私はこんな姿ではなかった筈なのだ。しかも確か今日も無事仕事を終え、晩ご飯の材料を買いにスーパーに向かってる途中だった筈だ。今日はセールで秋刀魚辺りが安いから、焼き魚にしようかなどと考えていた。
普段通りの生活をしていたのに、突然の今の状況。混乱するのは至極当然のことなのだ。
しかし相手はそんなことお構い無し。
というか、
「あなた何言ってるの?」
と言われてしまった。
そりゃそうだ。
だって私は、そう言った彼女から産まれたのだから。
あれから1年。
私は私を産んだお母さんから、所謂「親離れ」した。
お母さんは寂しそうに、名残惜しそうにしていたけれど…でも私は自分のやりたいことをして生きようと決意したのだ。
お母さんは
「いつでも帰っておいで」
とは言ってくれたけれど、私はもう二度とここへは帰らないだろう。
いや、勿論怖いけどね?
天敵たくさんいるし。
ご飯だってお水だって、いつ口に出来るかも分からないし。
こんな小さな身体では、たくさんの生物に狙われてしまう。食糧として…。
でもまあ、それも自然の節理…食われたらそれはそれで仕方ないか、なんて思ってる時点で既に私はこの身体、この生活に馴染んでしまっていたのかもしれない。
どのくらい歩いたのだろう?
この1年生活していた範囲の外まできて、不安に駆られながらも尚歩き続けた。
そうして見つけた湖。
(水だ!!)
ゆらゆらと揺れる水面に太陽の光が反射して、キラキラキラキラと輝いている。
私はからからになった喉を潤しに走った。
(うんまあ〜)
ゴクゴクとお腹がたぷたぷになるまで水を飲んでしまった。しかしお腹も減っていたし、とりあえず水でお腹を満たしておいた方が得策だ。何せ、いつご飯にありつけるかなんて分からないのだから。
ぐぅーっと小さな身体を伸ばした私は、木陰で一休みすることにした。
キラキラキラキラ光る水面に、今の自分の小さな黒い身体が写り込んでいたが気にせず眠りについた。
そよ風が気持ち良い、春の出来事である。
今の私の身体を見た人は言うだろう。
「猫だ」
と。
そう、私は可愛い可愛い猫たんになっていたのだ。
NEXT‥