第9章 言葉の使い方
少しだけ…嬉しかったのにな。
僕が好きな食べ物を何も聞かずに一番初めにくれた事。
さっき食べた甘くて美味しいケーキと
同じケーキは甘くなくなって…何も美味しくなくて。
食堂からみんなが、ごちそうさまーと
ぱらぱらと移動していった。
お皿を洗っている由佳に食べ終わったお皿を渡して、
覚悟を決めて…
「話ってなに?」
冷静に普段通りの声色で言ったつもりなんだけど
由佳はずっと俯いて
「昨日の事なんだけど…。ごめんね。無理やりマッサージとかして…。その、嫌だったんだよね。蛍の事考えないでしたから…蛍怒ってるんだよね…その…」
え…??怒ってる…?僕が?由佳じゃなくて僕が…?
「なに言ってるのさ?僕を避けてるのは由佳デショ?」
「え…?あたし避けてなくて、あの…蛍を怒らせちゃったから…気まずくて。でも謝らなきゃって」
たどたどしく弱々しくぽつぽつ話す由佳。
「っていうか、僕は由佳に怒ってなんてないんですケド?」
由佳の言葉に…
「え?だって昨日、すごく冷たく、別にって言って…。いつもと違う感じがして…だから…ケーキ買って謝ろうって。でも蛍だけって訳にはいかないから。あたしの分も…」
さっきと変わらず、普段のおしゃべりな由佳とは違う
たどたどしい、子供の様に話す由佳に
グルグルと忙しなく不安定になっていた思考と心が
どんどんと集まって纏まろうとしていく…
「ホント…勘弁してよね…。」
これが本音だ。
「え…?あ…ごめんなさい…」
そう言うとまた不安そうな顔をして俯こうとする由佳に
「僕はさ、キャプテンとは、全然性格違うの由佳わかってるデショ?ホントに嫌だったら無理やりにでも、どかしてるし。」
そう言うと由佳は
顔を上げ僕の目を色素の薄い目でじっと見つめて
「良かった…ほんとに怒ってなくて良かった…」
と鼻声で呟くように言ってきた。