第8章 瞳が月のように光るから
「その事、知ってる人って他にいるの?」
「…ん。バレーの事は大地さんに話したよ。ケガしてバレーボール出来なくなった。だからバレーは嫌いって感じで。ここまで詳しくは話をしてないけど。そうしたらバレーまで嫌いにならなくていいんじゃないかって。だからマネすることにしたの!小さい頃の話は誰にも話したことないなぁ~。」
「誰にも?じゃあ、なんで僕には話したのさ?」
由佳は僕の方に顔を向けたけれど、
その表情は暗くてよく見えない。
ただ由佳の瞳が一瞬月のように光ったように見えた。
「蛍は、簡単に 可哀想 って言わないでしょう。簡単に 辛かったね って言わないでしょう。別に同情してほしい訳じゃなかったから。その言葉を言われるたび惨めになっていく感じがするんだよ…。可哀想になんかなりたくなかったから…。でも、それでも蛍に知って欲しかったのかもしれないね。」
「なにそれ。もしさ、僕が可哀想だね。って言ったらどうしてたのさ?」
「…んーどうしてたんだろうね?やっぱり自分は惨めな人生だった、って思うのかもしれないね。」
由佳は立ち上がると、
ん~!と手を上げ背筋を伸ばした。
月に背を向けてこちらを向いた
由佳の表情は相変わらず分からない。
こんな時なんて声をかければいいのかもわからないけど。
「…僕は…由佳がそんな体験をしていても、今の由佳しか知らないし、そんな事を経験した今の由佳の方が僕はいい…と思う…」
…って僕はなにを言ってるんだ!!!!
慌てて訂正しようとしたら
「蛍、ありがとう!あたしも蛍がいいって言ってくれる今がいいな!」
なんて言うから…
「バカじゃないの…。もう遅いんだから寝るよ!」