第6章 左隣と君
この辺で一番大きいスポーツ用品店に着くと、
由佳は目をキラキラさせ、キョロキョロとしながら離れて行ってしまった。
まったく…と思い辺りを見回すと由佳が
カラッとした夏の空の様なキレイな色のスポーツタオルをジッと見つめていた。
由佳はタオルのサンプルを触って少し考えそのタオルを二枚カゴに入れた。
何故か見てはいけない、
見たくないモノを見てしまった感じがして、
逃げるようにシューズコーナーへ足を運ばせた。
別にタオルを見ていただけだ。
そんな事わかっている。
でも頭に浮かんだ人物が思考から消せなくて…。
頭を切り替え、シューズを見ていた。
履きやすいシューズがあったから買い替えようか悩んでいると
由佳がふっと横から顔を出した。買い物袋を二つ持って…。
「そのシューズ、買うの?」
「君には関係ないデショ。」
「ん~!そんな言い方しなくても~!せっかく蛍と一緒に来れたんだからぁ!」
そう言うと由佳はわざとらしく口を尖らせている。
由佳は厄介この上ない。
いや、由佳が厄介なんじゃない…
自分の性格、思考、素直に聞くことが出来ない…そして《ソレ》が厄介なんだろう。
そんな事を黙って考えていたのを
自分が僕を不機嫌にしたと捉えたらしく、
由佳が、うるさくしてごめん…
とぼそりと呟いた。
何か言わなければと…
「何を今更謝ってるのさ…。由佳がうるさいのはいつもの事デショ。」
結局、僕の口から出る言葉はこんな言葉しか出なくて…。
「…ん、そうだね…。ごめん」
由佳はそのまま黙って俯いてしまって。
あの人たちなら…何て言って由佳を笑顔にさせるんだろうか?
きっとその言葉で由佳はすぐに笑顔になって、
あの人たちはそれに応えるように笑って、
由佳を安心させてから、
優しい手で頭を撫でられて
由佳は嬉しそうにまた笑うんだろうな。
考えれば考えるほど悪循環に陥って。
このままじゃだめだと
「もう、出よう。」
そう言うと由佳は黙ってコクンと頷いた。