第4章 誓い
「……。私の、ミスだ。マスターとしての、私の。」
でも、今自分のミスを悔やんでいても仕方がない。だから、問おう。
「アヴェンジャー。私は、どうすればいい?」
「…………。」
アヴェンジャーは、苦い顔をして黙っている。
「魔術回路やパスを用いずに、魔力を譲渡する方法。それがあるなら、教えて。私、やるから。」
「…………。」
アヴェンジャーは、やはり苦い顔をして黙っている。でも、私には、何となくだけど、分かる。この顔のアヴェンジャーは、絶対に何か知ってる……!
「今は緊急事態! いいから、早く!」
こっちは真剣なんだから、いつまでも押し黙られていては、困るのに。
「少し―――――、少し静かにしていろ。」
アヴェンジャーは、低く、掠れた声で、そう言った。
「……っ。」
その言葉は、不思議なくらい、部屋中に響いた。
アヴェンジャーは、いつも被っている帽子を、頭からそっと外した。はめていた黒い手袋も外した。そして、その大きな手で、私の右手をそっと取った。その仕草は、まるで映画化ドラマに出てくる男性が、美しい女性をダンスに誘うような手つきか、或いはそれよりも優雅なものだった。右手を引っ込めるなんてことは、できない。それほどまでに、アヴェンジャーの手つきは、繊細だった。
アヴェンジャーはそのまま、私の右手を自身の顔に近づけた。私の手の甲に軽く触れる、アヴェンジャーの唇。その、あまりにも美しい、流れるような動作に、私は言葉も出なかった。それなのに、令呪が燃えるように熱い。右手から全身に、その熱が伝わっていく。
「アヴェン、んっ……!?」
「なに。気にするな。お前は……、そうだな。誓いのキスとでも思っておけば良い。」
「……っ!?」
割れたステンドグラス。傾いた十字架。それでも此処は、教会だ。崩れていようとも、それに変わりはない。ここが特異点となる以前には、この教会でも、神の前で何かを誓うような儀式が執り行われたことがあったのだろうか。そんなことが、私の頭にぼんやりと浮かんでは、消えた。
アヴェンジャーは、そうして私の右手を持ち上げ、私の指先を自らの唇へ触れさせた。それはまるで、愛おしい恋人に、愛情を示すような行為だった。