第3章 憎悪
刹那、アヴェンジャーがその子の背後へと現れた。アヴェンジャーの瞳は、獲物を捕捉した獣のそれだった。そのまま、鉤爪(かぎづめ)のように変形させた黒炎で、その子の首と手を、一瞬で切り裂いた。同時に解放された、私の首。
「っく……! けほっ、……は……!」
私は一気に息を吸い込み過ぎてしまい、咽(むせ)てしまった。
アヴェンジャーは、そのまま数発の追撃を加え、仕上げとばかりに子どもの残骸を焼き払った。高速で繰り出される連続攻撃に、子どものような存在は、抵抗らしい抵抗など全くできないままに、アヴェンジャーによって葬られた。
子どものような存在だったものは、最初からここには存在していなかったかのように、霧散した。
「だから、待てと言っただろう。」
アヴェンジャーは、私に抗議の視線を向けてきた。鋭い視線に射抜かれて、私はビクリとした。
「はい……。」
今回は、私の不注意だったから、何も言えない。素直に謝ろう。
「ごめんなさい……。助かりました……。次からはもっと注意します……。」
アヴェンジャーは、それ以上私を責めなかった。
「ところで、さっきの……、子どもみたいなの……? 消えた、よね。あれじゃあまるで、ゴーストみたいな感じ、だよね?」
「恐らく、その見立ては正しい。お前を見つけるやいなや、殺そうとしたのだ。怨霊の類で、間違いはなかろうよ。」
「そっか……。」
いくら、ゴーストの類だったとしても、人間の、それも幼い子どもの姿をした存在を殺してしまったのだ。頭では分かっていても、あまり気分が良いものではない。
「アレは間違いなく、人間外だ。何体屠(ほふ)ろうとも、お前が気にする必要などない。」
口調こそ冷たいものだが、もしかして、―――――いや、もしかしなくとも、私を慰めてくれたのだろうか。
「……ありがとう。」
「フン。だが、次は無いと思えよ?」
そう言って、アヴェンジャーは、再び鋭い視線を向けてきた。
「は、はい!」
やっぱり、私の勘違いかもしれません。