第3章 憎悪
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「……えっ!?」
「……。」
そこに広がっていたのは、ダークグレーの海だった。
「ねぇ、ここ、港……だよね……?」
「船、いや。船の残骸があるところを見れば、ここは間違いなく港“だった”のだろう。」
ダークグレーという、何ともおどろおどろしい色合いの海水が、ざざーん、ざざーん、と、一定のペースで押し寄せている。色こそ気持ち悪いものでしかないが、波が一定のペースで押し寄せてきている辺り、やはりここは海であるらしい。
アヴェンジャーが言った通り、停泊していたらしい船は、無残に壊れている。いや、“壊れている”というよりは、“破壊された”らしい痕跡が残っているのが、何とも気になるのだが。
「あ……。あれ……?」
ダークグレーの海。その波打ち際を、何か……。人間? そう。小さな子どもが、歩いているではないか!
私は半ば反射的に、そこに向かって駆けていく。
「待て!」
アヴェンジャーの制止を背中で聞きつつも、足は止めない。こんなところに、小さな子どもがいるなんて、駄目だ。もしかして、何かのはずみで、この特異点跡に紛れ込んだのかもしれないし。とにかく、すぐにでも保護しないと!
子どもは、3~4歳ぐらいだろうか? 子どもも、私に気付いてくれたのか、よたよたと駆け寄ってきた。あと数メートルぐらいで、私の手が届く、というところにきて、不意にその子どもの手が、ものすごい速度で私の首元へ伸びてきて、私の首を正面から、その両手で絞めつけた。一瞬、私は自分の身に何が起こったのか、理解が出来なかった。
「ぁ……。っぅ……!?」
子どもの腕が伸びてきたということにも驚いたが、何より驚愕だったのは、小さな子どもとは思えないほどの、強い力。それに、子どもの目は、幼子独特のあどけない瞳とは、大きく異なっていた。目玉が零れ落ちんばかりに見開かれた瞳は、ギラギラと不気味に光っており、そこからは強い憎しみが溢れだしていた。……嫌でも、理解した。この子は―――――、私を殺したいんだ。