第17章 第3部 Ⅲ ※R-18
『我が征くは恩讐の彼方――――
虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!』
宝具解放により、凄まじいまでの連続攻撃がスプリガンに打ち込まれる。これで、勝負は決まっただろうか。そう思い、粉塵の中、敵を見ようとした、その時だった。
「―――――ぇ?」
スプリガンの拳が、私の頭上に迫っている。
「――――――」
声が出ない。巨大な拳が、私に振り下ろされる。
「――――――」
私は、目を閉じることも出来ず、その光景をただぼんやりと眺めていた。いや、そうすることしかできなかった。
やがて、全ての動きがスローモーションに変わる。拳はもう、私のすぐ上だ。
「――――――マスター!!」
刹那、アヴェンジャーの声。
「……!!?」
拳は、確かに振り下ろされた。しかし、その拳は、アヴェンジャーの左腕によって、受け止められていた。……いや、違う。アヴェンジャーは、自らの左腕を犠牲にして、私の盾としたのだ。
「っ!」
残った右手に、魔力が収束していく。黒炎と共に、アヴェンジャーの拳がスプリガンへと叩き込まれる。スプリガンは、その場に崩れ、二度と動かなくなった。
「――――ハァ……、ハァ……、っく……!」
アヴェンジャーはその場に片膝をついて、荒い呼吸を繰り返していた。
「アヴェンジャー……?」
「ハァ……、ハァ……、っぁ……。」
アヴェンジャーは、私の声に応えることもなく、ひたすらに荒い呼吸を繰り返している。
顔面は蒼白。その瞳に、いつものような力強い煌めきは無い。
「ちょ、ぇ……?」
アヴェンジャーの左腕は、ぶらりと垂れ下がり、まるで力が入らないかのようだ。さっき、私を庇った所為だろう。
「ぁ……、マス、ター……。」
その瞳は、既に虚ろだった。急いで、アヴェンジャーの魔力残量を確認する。
「え……?」
魔力など、殆ど残っていなかった。むしろ、霊基を保てているのが不思議なぐらいだった。でも、おかしい。宝具解放のための魔力は、間違いなく令呪で補填した。それなのに、これしか魔力が残っていないなんて、どう考えても計算が合わない。しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。