第3章 憎悪
「……マスター。何を呆けている? このまま無為に時を過ごすか? それは愚行だぞ。」
「あ、いや、その……。」
……そう。口を開かなければ、だが。
「俺を見ていたところで、事態は解決せん。状況が悪化することはあってもな。」
アヴェンジャーは、ご丁寧にも溜め息まで吐いてみせた。
「わ、分かってるよ!」
ぐぬ……。まさかこの危機的な状況下で、「アヴェンジャーに見惚れていました」なんて、口が裂けても言えない。それに、いつもは他のサーヴァントたちとも一緒にいるから、そこまで意識しなくて済んでいた。“あの監獄塔”の中ですら、ナイチンゲールがいてくれた。でも、今は正真正銘、アヴェンジャーと1対1。こんな状況は、今までにほとんどなかったのだ。最近の私にとって、気になる相手なだけに、変に意識してしまうのは、仕方ないこと……とか、私はひとり、心の中で言い訳を呟いた。でも、こんな事ばかり考えていては、冗談を抜きにして、死ぬ。半人前魔術師の私にとって、わずかな油断でも、それが即、命取りになるのだ。だからこそ、目の前の問題を解決することに、集中しなくては。意識を、切り替える。今は、余計な事を考えるな。
「問題を解決しようにも、いくら何でも情報が少な過ぎる。まずは、手近なところから調査する必要があると思う。アヴェンジャー、ついてきて。」
「妥当な判断だな。よし。どこへ向かう?お前は、多少なりとも、この土地を知っているのだろう?」
「少しはね。……あ、ちょっと待って。」
そう言えば、用意してきた礼装は、どうなっているのだろう。これも、失われてしまっているのだろうか。