第9章 政宗の花嫁
吹く風に 秋の香りを感じ始める頃
二人の元へ ある人が訪ねてきた
「失礼致します」
(ん?この声…)
「入れ」
襖が開くと
凛とした女性が一人
年の頃は 四十過ぎ
黒髪を後ろで束ね
背筋を真っ直ぐに
延ばして 政宗を見つめていた
「お久しゅうございます 政宗様」
「喜多!」
思わぬ客人に 驚きを隠せない政宗
とりあえず 部屋に招き入れると
向かい合い 懐かしい顔を眺めた
「どうした?突然」
「政宗様 婚儀の御祝いに」
政宗は眼を瞬かせ
唖然と喜多を見る
「っ…もう耳に入ったのか」
驚く政宗を
豪快に笑い飛ばす
「喜多の地獄耳を お忘れか」
「そう…だったな」
溜め息混じりに笑い
白雪を振り返る
きょとんとして 政宗と喜多
交互に視線を移す白雪
「白雪 紹介する 俺の乳母の喜多だ」
白雪が驚いた顔で
喜多を見る
「喜多 白雪だ 俺の妻になる女だ」
喜多と呼ばれた中年の女性が
恭しく頭を下げる
「片倉 喜多にございます
先代の頃より 伊達家に仕え
政宗様 ご誕生より乳母を
務めさせて頂きました」
「白雪です よろしくお願いします」
白雪も喜多に倣い
手を揃え頭を下げた
「暫くは此方で白雪様と
共に過ごす所存でございます」
「え?」
突然 自分の名を告げられ
動揺した白雪が
不安げに政宗を見る
それを受け
政宗が訝しげに喜多を見た
「どういうことだ」
「ふふ…そんなに睨まずとも
とって食いは致しませぬ」
柔らかい笑顔を浮かべ
喜多が続ける
「先日 織田信長様 豊臣秀吉様より
書状を頂戴致しました」
「な…に?」
喜多の口より出た
意外な名に驚く
「政宗様が 本気で惚れて安土より
織田家縁の姫を 連れて帰った…が
姫は事情により 今だ花嫁修業を
済ませて居ない と」
そこまで聞いて
察しがついた政宗
「秀吉の依頼か…」
「はい」
「っ…たく…勝手な事を」
全てを悟った政宗に
喜多が嬉しそうに微笑み
白雪に向き直る
「秀吉様より白雪様の
花嫁修業を 仰せつかりました」
「伊達家の妻として 恥じる事なき
立派な姫に なりましょうぞ」
「待て待て その話一旦待ってくれ」
政宗が慌てて割って入った
「なぜです」
「なぜって…とにかくだ」
ぴしゃりと言い切る喜多に
たじたじの政宗