第9章 政宗の花嫁
それから二週間
政宗は白雪の側を 離れなかった
政宗の狂気を
目の当たりにした江介は 何も言わず
政宗が白雪の側で
政務をこなせる様 配慮してくれる
仕事の時以外は
白雪の世話に 明け暮れた
動ける様になるまで
毎日 湯桶と手拭いを手に
白雪の身体を清め
髪に櫛を通した
白雪の為に
食事を作り 食べさせる
動ける様になってからは
湯殿も共にした
「……赤ちゃんになった気分」
たまに訪れる 見舞いの家臣や
針子仲間に 白雪がそう告げると
皆 一様に声をあげて笑った
二週間が過ぎる頃には
顔の痣も 身体の痣もなく
首筋の傷も僅かに
窪みを残す程度となり
政宗はほっと 胸を撫で下ろした
白雪は今日も 柔らかな笑顔で
政宗の隣にいる
何よりも 眩しい笑顔を
宝の様に 慈しみ 愛して
この先の人生を 共に過ごす
そう決心して 青葉に迎えた事を
改めて思い出し
きちんと言葉に
しなかった事を悔いた
「…白雪」
「なぁに?」
この日久しぶりに 夜着でなく
着物に袖を通した 白雪
藍色の薄衣を纏い
緩く結い上げた髪に あの時の
瑠璃色のかんざしを挿した
一瞬 あのときの
光景が頭を過った
「っ…それ……」
「うん…これがあれば
もう二度と馬鹿な事しなくてすむから」
「ふっ………本当に強いのは お前かもな」
「えっ?」
「いや 何でもない それより……」
「うん?」
「久しぶりに 庭でも歩こう…」
ふにゃりと笑って頷き
政宗の腕に絡み付く
そんな 何気ない仕種の
ひとつひとつが
愛しすぎて 胸が熱くなる
ゆっくりと歩き
中庭へ出る
相変わらず 白く美しい花々が
咲き誇り 辺りに甘い香りを放つ
東屋へ向い 腰を下ろす
「…綺麗だね」
「あぁ」
白雪の横顔を
眺めて 返事を返す
政宗の視線に 気が付いた白雪が
頬を染めて そっぽを向く
「それじゃ見えない」
「………」
無言の抵抗を 楽しむ様に
言葉を投げ掛ける
「美しい花を 愛でに来たんだ」
「………」
白雪の耳が紅く染まる
「もっと 楽しませてくれ」
「………」
これ以上ない位 紅くなって
それでも こちらを向こうとしない白雪
「こっち向けよ それとも
俺に 向かせて欲しいのか?」
意地を張ってそっぽを向く
白雪に 意地悪心が疼く