第9章 政宗の花嫁
グサッ グサッ グサッ グサッ
グサッ グサッ グサッ グサッ
理性を失った政宗が
壊れた からくり人形のように
何度も何度も 同じように刀を刺す
あまりの狂気に
茫然としていた江介が 我に返る
「っ…政宗様!政宗様!」
ゆらゆらと立ち
返り血に染まった身体を
江介に向けると
ぼんやりと白雪を眺める
そこには 絶望しかなかった
残された左目は光を放たず
血に染まった顔は表情すら持たず
江介は言葉を失う
その時白雪が微かに動いた
「っ…政宗様!気を確かに!」
茫然と立ち尽くす
政宗の頬を鋭い痛みが走る
平手打ちを浴びせた江介が
政宗を怒鳴り付ける
「女の力で 喉を付いた
程度では 人は死にません」
「っ…」
江介の声に 引きずられる様に
虚ろな心が 僅かな光を求め
暗闇から這い出て来る
青い瞳に 光が宿り 力が戻っていく
「………白雪っ」
ぐったりと 横たわる
白雪の元に駆け寄り
投げ棄てられた着物で 身を包む
「馬を調達して参りますっ」
政宗が 正気を取り戻したと
確認した江介が走り出す
「白雪 大丈夫だ 大丈夫だから」
抱き上げようとして
血だらけの自分に気が付く
「……っ」
政宗の前髪を伝って
白雪の顔に
ぽたりと血が垂れた
全身が総毛立つ
汚してはならない
転がる様に川面へ向い
手と顔の血を洗い流す
この女は血で
汚れてはならない
白い花の様な笑顔を
護らねばならない
側に戻り 傷を確認する
江介の言った通り 傷は浅く
胸は規則正しく 上下動を繰返し
生きている事を示してくれる
白雪を覆う着物の袖を裂き
首筋の傷を圧迫する
温かく ぬるりとした感触に
指先を見る……赤く染まる指先
「っ…くっ」
(また……失うのか……)
父上の 弟の 赤い血が脳裏を過る
自分の決断によって 失われた
命の重みに 呑み込まれそうになる
やっとの思いで 手に入れた幸せが
指と指の間を すり抜けていく
指先が白むまで強く握り締める
(離さない…二度と手離さない)
白雪を抱き抱え
江介を追って歩き出す
白雪の傷ついた頬を
政宗の涙が濡らしていく
「政宗様!これで城へ!後は私が!」
馬を連れて江介が戻る
駆け寄る江介から 手綱を受け取ると
後始末を頼み 白雪を抱いて馬を走らせた