第9章 政宗の花嫁
知らせを受けた時 政宗は江介と
領地についての政務をこなしていた
「なに?白雪が?」
「政宗様 すぐ参りましょう
町娘なら知らず 白雪様は目立ちますから」
安土でも何度か絡まれている白雪には
城下へ降りる際は必ず共を付けるか
政宗と共にしろと
再三に渡り言付けている
「くそっ」
やはり 勘のいい白雪は
許嫁のことに 感付いていたのか
迂闊だった
きちんと話すべきだった
走りながら
憂い顔の白雪を思い浮かべる
城から走り出て
白雪の知る路を走る
甘味屋 呉服屋
白雪の知る店を走り
川辺に足を向けた
白雪は 政宗の教えた
路しか通らない筈と
記憶を手繰りに走り続ける
川辺に差し掛かった時
江介が橋の下に 人影を見付けた
「政宗様!」
蒼白な顔で 指差す方に
眼を向けると……
二人の男が 何かに馬乗りになり
忙しなく蠢いている
男の下に 白い身体が覗く
どす黒い何かが 腹から沸き上がる
声を発すれば その何かに
魂が取り込まれる気がした
ごくりと 唾が喉を落ちていく
一歩 また一歩 近づくと
女の細い腕が 緩慢に動く
その手に握られていたのは
見覚えのある
瑠璃色の珠かんざし…
弾かれる様に 駆け出す
近づくにつれ
はっきりと見えてくる
蒼白な白雪の顔
手にされたかんざしの意味
(駄目だ! 白雪! 駄目だ!)
名を呼ぼうとした瞬間
視界から瑠璃色が消える
駒送りされるように 時が歪み
細く尖った 美しい髪飾りが
愛する女の 首筋に食い込んでいく
その様が政宗の 脳裏に焼き付いた
「しらゆきぃぃぃーーーー!」
気が付けは絶叫していた
叫びながら抜刀する
数々の戦で 身に付いた動作に
無駄はなく 流れるように身体が動く
最初の一振りで
男の首に 刀が食い込んだ
骨にぶつかり其所で止まる
力の限り押し斬ると
鮮血を撒き散らし
ごろりと首が落ちた
突然の事に 瞬時に判断がつかず
もう一人の男は
落ちた物に視線を向ける
首だけになった男と 目が合う
「ひぃぃぃぃーーーーー!」
声にならない声をあげ
地面を転がるように 逃げ出す
ゆらりと立ち上がった政宗が
野を這いずる 背中を踏みつけ
容赦なく その背に刀を突き刺した