第9章 政宗の花嫁
「白雪様 何か暗い顔を
して居られましたね」
「お前もそう思うか?」
「今日の御客人の事
何処かで耳にされたのでは?」
小さくなる白雪の背中を
眺めて思案にくれる家臣達
(覚悟してたつもりでも
実際言われると きついな…どうしよう
城に居たくない…少し一人になりたい)
城下に行く際は 必ず共を付けろと
再三に渡り言われているが
白雪は一人 城下へと階段を降りていく
「あっ…さっきの姫君…」
「ん 庭で出逢ったと言う姫君か?」
「はい 父上」
「……共も付けずに…
おい 政宗殿にひと言 告げて参れ」
「はっ」
話を終え 門に向かっていた
客人が 白雪の後姿を認め 家臣に告げた
馬や籠を使用せず
親子でゆっくりと歩く
「姫…婚儀の事」
「父上…姫はまだ 父上の元に
居とう御座います」
姫は愛らしい笑顔を父に向けた
川辺に腰を降ろし水面を
ただぼんやりと眺める
戦に向かう途中 川辺で
花火を楽しんだ時の
胸に沸く鼓動が
政宗と笹飾りを流した時の
幸福な気持ちが……溢れてくる
ただ川を見ただけでも
政宗との思い出に
心を占領されてしまう
何を見ても 何をしていても
政宗との思い出が…
政宗に 沸き立てられた
感情が心に宿る
(本当に私 政宗の事 好き過ぎる)
長い溜め息の後で 視線をあげる
(政宗は 未来を作る使命がある
私はどんな形であれ
それを支えよう 家臣の人も言ってた)
(支えになれたら…それで充分
側で生きられるならそれで充分)
白雪なりに考えを決め
城へ戻ろうと立ち上がった
「これはこれは…」
「たいしたべっぴんさんだ」
「女が一人でいちゃいけねぇなぁ」
ギクリとして振り返る
男が二人 にやにやと白雪を見る
白雪は弾かれた様に 全力で走り出す
男達は鬼ごっこでもする様に
笑い声をあげながら
白雪を追い掛け始めた
「へへっ ほらほら 追いつくぞ~」
橋の下に逃げ込み 欄干に手を伸ばす
その手を捕らえられた
声を上げようとした瞬間
口を塞がれ視線が回転した
一人が馬乗りになり
一人が頭上で両手と口を塞ぐ
「ふっ…んん………ん」
声にならない声が男達を煽る
「へっ へへっ たまんねぇなぁ」
「この白い肌 吸い付いてくる」