第7章 紡がれる日々
真っ赤になって
パシンッと政宗の肩を叩く
「うっ…」
突然立ち止まり
苦しげに眉を寄せる政宗
「うぅ…くそっ…傷がっ」
「えっ…うそっ」
自分を庇い 肩を撃たれた過去を
思いだし青くなる白雪
暫く俯いていた政宗が
心配そうな白雪を真っ直ぐ捉え
……吹き出した
「えっ…政宗?」
「ははっ…冗談に 決まってるだろ
あれからどれだけ 経ったと思ってる
やっぱり…可愛いな お前」
可笑しそうに 笑いながら
白雪を下ろし 縁側から中庭に出る
「もぉぉ!政宗のばかっ!」
頬を膨らませ
唇を尖らせて抗議する
白雪の手を取り 中庭へ下ろす
「悪かったって 機嫌直せよ」
そう言うと 先日から囲われていた
庭の杭に手を掛け 白雪が通れる様に
白い布を押し上げ 入る様に促す
「…入っていいの?」
「あぁ お前の庭だからな」
「え?」
背丈ほとの囲いを ぐぐり抜けた
瞬間 白雪の眼に飛び込んできたのは
見事なまでの 白の洪水
噎せ返る様な 甘い香り
隅から隅まで 白い花が咲き誇っていた
「っ…… これっ」
芍薬 牡丹 小手毬 大手毬 芝桜 梔 五月
山査子 七竈 石楠花 躑躅 菖蒲 百合
他にも季節違いで
今は花目のない物まで
国中から集められた草花で
埋め尽くされている
「あぁ いつか聞いた
お前の祖父母の庭を再現した」
ゆっくりと政宗を振り返る
白雪の瞳から濁りのない
透明な雫がぽろぽろと溢れる
「俺は…お前を手放す気はない
元の時代に返してやる事も
家族に会わせてやる事も出来ない
……だから」
「ここで作ると決めた
お前の思い出を…
子が産まれたら ここに花木を植え
年老いて孫が産まれたら
ここに花木を植える
お前の家族がしてたように」
「っ……政宗っ」
飛び込んで来る
白雪の細い身体を
しっかり受け止める
「奪ったもの以上の幸せを
お前に与えるとここに誓う」
政宗の毅然とした瞳に
一辺の迷いも嘘もなく
その愛が真っ直ぐに
白雪の心を貫き 満たしていく
「真実一路この愛をお前に捧げる」
抱き留められた
腕の中で 小さく頷く
「たとえこの先 何があっても
それだけは 変わらない」
細く震えながら こくりと
頷くことしか出来ずにいる
白雪の顎を掬い上げ
必死に涙を堪えようと
噛みしめた唇に唇を重ねる