第7章 紡がれる日々
白雪の言葉を最後まで聞かず
足を掴んで草履を脱がせる
丁寧に足袋を脱がせ 桶の水で優しく拭った
「……っ政宗…ありがとう」
恥ずかしそうにする白雪
はにかむ顔もまた可愛いくて
ついつい口元が緩む
そんな二人を呆然と眺めていた宿の者に
家臣がこほんと一つ咳払いをした
弾かれた様に女中や番頭が動き出す
「こちらが伊達家当主 伊達政宗様と
織田家所縁の姫君 白雪様だ」
「これはこれは
ようこそ おいで下さいました
大したおもてなしは 出来ませんが
どうぞごゆるりと お身体をお休め下さい」
家臣に紹介されると 主人らしき男が
にこやかに 慣れた様子で挨拶をする
「ありがとうございます
白雪です お世話になりますね」
「突然ですまないな
近くまで来て 徳川家康お薦めの宿を
思い出して 寄り道を決めたんだが」
「家康様が!
それは有難い事で御座います
確かにこれまでに数度
お越し頂いております」
恰幅のいい女将が 嬉しそうに笑顔をみせる
さっそく 家康からの情報を尋ねてみる
「人目を気にせず入れる湯があるとか」
「はい さっそくご用意致しましょう
ささ こちらへ」
待ってましたとばかりに
女将が中へと誘導していく
家臣らには 別室でゆっくり休めと伝え
白雪を抱き上げて 女将のあとを追う
中廊下を進むと渡り廊下へ出た
その先に小さな離が見える
女将が振り向きながら
人のいい笑顔で説明する
「あちらで御座います
座敷と控えの間
それから湯場があの離の中に」
「へぇ…」
政宗は興味深けに きょろきょろと
視線を動かしながら離に入って行く
こじんまりとした部屋へ通され
白雪を下ろす 簡単に宿内の説明をすると
女将はまた後程にと告げ 部屋を後にした
「白雪 夕餉の前に身体をほぐせ」
「…うん そうしようかな」
政宗が障子を開けると広縁があり
その向こうに板壁に囲まれた
小さな庭がある 中央にあずま屋が見え
中から湯気が立ち上る
「あれだな 温泉」
「わぁ 贅沢」
感嘆の声を漏らす白雪に
政宗が首を捻る
「あの小さなあずま屋が?」
「だって独り占めだよ?」
外の広い湯場を人ばらして
独占することも容易いことだが…
白雪は好まないだろうと口をつぐむ
「まぁ そうだな ほら入れよ
俺は荷物を取ってくるから」
「うん ありがとう」