第6章 貴方に夢中~短編集~
引寄せられ政宗の
温もりと匂いにやっと落着きを取り戻す
「これ どうしたの」
そっと手を伸ばし右腕に触れる
「大したことない
ちょっとした擦傷と打撲だ」
視察先で 家臣の目を盗み
子供が馬によじ登り
驚いた馬が子供ごと走り出して…
振り落とされた子供を庇って
傷を負ったらしかった
暫くすると家康が
薬箱を持って政宗の元を訪れた
政宗が諸肌を脱ぐと 傷口が露になる
二の腕から手首の少し上まで
ずるりと酷く擦りむけ所々で
薄桃色の肉が見えている
肩や腰にも紫色の痣が見える
傷の状態を確認した家康が溜息をつく
消毒して症状にあった薬をその場で
煎じて膏薬を調合する
「見ての通り 大した傷だから
政宗さんの言葉は無視して
なるべく動かさない様に見張って」
「化膿してないか毎日確認すること
熱が出てないか毎日確認すること
薬はこれを……大丈夫?」
「うん 大丈夫」
神妙な顔で頷き手順を確認して
薬壷を受け取る
「何かあったら誰か寄越して…じゃあ」
「ありがとな」
「…いえ
無理しちゃ治るものも治りませんから
暫く大人しくしてて下さい
白雪 見送りはいいから
政宗さんに張り付いてて」
「分かった 任せて」
余りに真剣に頷くので家康が薄く笑う
「あんたが居れば大丈夫だね」
ちらと政宗をみて部屋を後にした
≪数日後≫
「はい あーん」
「……」
「あーん!」
白雪に睨まれ渋々口を開く
口に運ばれた食事を咀嚼して呑み込む
茶碗が空になるまで繰り返す
「白雪…もう」
「駄目!」
「まだ何も言ってないだろ」
苦笑いする政宗に向き直る
「大丈夫って言うんでしょ」
「……」
言い当てられてむぅっと眉を寄せる
「駄目だよ ぜぇーーーたい駄目
政宗はもっと甘えなきゃ駄目」
「はぁ……」
溜息と共に畳に寝転ぶ
あれからと言うもの
朝起きてから 夜眠りに付くまで
文字通り 張り付いて離れない白雪
食事も 着替えも 身支度も 湯浴みも
剰え 厠まで付いてこようとする
髭を剃る時には 震える手で
剃刀を握られ 肝が冷えた程だ
賢明に世話を焼く姿が
愛しくも嬉しくもあり
最も格好付けたい相手に
みっともない姿を去らすのが
ひどく恨めしい