第6章 貴方に夢中~短編集~
~安土城~
政宗が視察の為十日程留守にする
城で過ごして五日が過ぎた頃
その知らせが届いた
政宗が怪我をした
膝が震えて 上手く立てない
首を締め上げられた様に 息苦しく
胸がザワザワ煩くて 身体の中を何かが
這い回っている様な 錯覚を覚える
じっとして居られない私の為に
政宗の御殿で 帰りを待たせて貰える様
秀吉さんが手配してくれた
忙しい秀吉さんに代わって
三成くんが政宗の御殿まで送ってくれる
「怪我をされたのが三日前
知らせが届くのに一日として
早ければ今日 遅くとも明日には
戻られるはずですから 」
そう教えてくれた三成くんと別れ
政宗の部屋で待たせて貰う
二人でいると感じない広さが
今は孤独を伝えてくる
ぽつんと一人座っていると
ふと政宗の夜着に目がとまる
立ち上り手に取ると
ふわりと政宗の匂いがたち登り
我慢していた涙が溢れて止まらなくなる
政宗の夜着にしがみつき
張り裂けそうな胸を押し当てて
声を殺して泣き続ける
(どうしよう どうしよう どうしよう)
(政宗に何かあったら どうしよう)
衣桁から夜着が落ち夜着と共に
その場にへたり込んだ
「中身もないのに抱きついてどうする?」
背後から聞こえた声に 息を飲む
「お前の欲しいのはこっちだろ」
憎たらしいほど余裕に構えて
愛する男が笑っていた
弾かれる様に側に駆け寄る
抱き付きたい衝動をなんとか抑え込み
頭から指の先まで確認する様に
視線を這わせる
右腕が真新しい布に覆われて
首から下げられている
「っ…これ……!」
「大丈夫だ あいつら大袈裟なんだよ」
「うそっ!大丈夫じゃないもんっ」
白雪の震える声に 政宗の心が軋む
「泣くな……」
「泣いてない」
「下手だなぁ……嘘つくの」
政宗の左手が涙の痕をなぞる
血の気が引き 冷たくなった身体に
政宗の左手だけが温かさを伝えてくれる
「冷たいな…」
表情を歪めた政宗に白雪の心が波打つ
「っ…痛いの?」
ふっと笑みを溢し溜息をつく
「お前がそんな顔して
震えてるから心が痛い……」
「ほら 来い」
白雪の手を取り座らせる
「…あっ」
「おっと」
不意に手を引かれ よろけた白雪を
政宗が不自由な身体で受け止める
「っ…ごめっ」
くしゃと頭を撫でられる
「落ち着け ほら」