第6章 貴方に夢中~短編集~
~政宗の御殿~
今日も針子部屋から
賑やかな声が聞こえる
襖を開け放って
春の麗らかな光を浴びながら
針子達と若い家臣らが
愉しげな様子をみせている
「白雪はいるか?」
政宗が輪のなかに
愛しい顔を探す
「はぁい」
縫いかけの衣を持った白雪が
鈴のように軽やかな声で答える
「盛況だな」
「ふふ…皆さん着物を新調するって」
「あぁ 武士たる者 何時でも身なりを
整えて置くべきだからな……にしても」
「多過ぎやしないか?」
ちらと家臣達に視線を移す
「だっ…伊達家の家臣たる者
着たきり雀では名折れでございます故」
「伊達家 家臣は
着たきり雀じゃ駄目なのか」
慌てて言い訳する家臣に
思わず苦笑いする
「そっそりゃあ政宗様の顔に
泥を塗る訳には参りませんから」
「ねっ 白雪様」
会話の雲行きが怪しいと見るや
ちゃっかりと白雪を巻き込む
「えっ……うっ うん」
突然話を振られ言い淀むが
何かを思いだしにっこりと笑顔を見せた
「そうだね 政宗の家臣だもの
うんと洒落た着物にしなきゃね」
「へっ?」
「何だお前 自分から白雪に
振っておいてその間抜けな返答は」
「あっ…へへ すいません…」
「ふふっ あのね未来では粋で格好のいい
洒落た男の人のこと 政宗にあやかって
伊達男 って言うんだよ」
皆が一様に目を丸くする
「伊達男……ですか」
「これは良いことを聞いた」
「流石は政宗様!」
「私達も鼻が高いわね」
家臣や針子達が
一斉に響動めき口々に話し出す
「へぇ 伊達男ねぇ」
言いながら白雪の背後に腰を下ろし
後から抱えるように座る
「まっ政宗」
頬を染めて抗議する白雪に
気付かぬ振りをして胡座の上に抱く
「……本当に仲が宜しいですねぇ」
家臣の一言で皆の視線が集中する
恥ずかしさの余り白雪が
政宗の着物の袖で顔を隠した
「ささ……そろそろ仕事に戻りますか」
「私達は反物を取りに行きましょうか」
気を効かせたつもりなのか
あれ程賑やかだった部屋に静寂が訪れる
「さて……これ直せるか」
政宗に抱かれたままの白雪に
縫い目の裂けた袖口を見せる
「あ…うん 大丈夫 待ってて」
直ぐ様 道具を持ち出して
政宗の隣に座り直し針を動かし始めた
「ねぇ 政宗は
伊達男とか褒められて嬉しくないの?」