第6章 貴方に夢中~短編集~
~政宗の御殿~
政務を終え
鍛練の為道場へ向かう
(っ…なんだ?この盛況ぶりは)
この時間はいつも ガランとしていて
一人 黙々と木刀を降り続け
頭を空にして鍛練に集中する政宗
入り口で立ち止まり
家臣達で賑わう道場を見渡す
「あっ政宗様!
ご一緒させて頂いて宜しいですか?」
「あぁ…構わんが…」
政宗が首をかしげると
「白雪様ですよ」
呆れ顔で 仲間らを見渡した
江介が 政宗の疑問に答える様に
後から声を掛けてきた
「白雪?」
「はい 白雪様が先日
政宗様の鍛練の様子をご覧になったとか」
「あぁ…あの時の」
愛らしい白雪の姿を思い出し
自然と笑みがこぼれた
「その時のご様子を
白雪様が針子部屋で話されていて
針子部屋に 屯していた連中の耳に入り」
「今日も 白雪が見に来ると期待した訳か」
そこまで聞いて ことの顛末を察した
政宗が 江介の説明を遮った
「左様で 何でも政宗様の鍛練のご様子を
とにかく素敵だと べた褒めだったとか」
自分の知らない所で 白雪がそんな風に
自分を語っている事を知り
こそばゆい様な 妙な気分になる
「まぁ 俺が素敵なのは当たり前として
お前ら 普段は言わないとすぐ鍛練を
サボるくせに…いい度胸してるじゃねぇか」
ジロリと睨まれた家臣達が一歩下がる
「わぁ…今日は皆さんで
鍛練されるんですか?」
涼やかに響く 愛しい声に振り返ると
針子仲間を引き連れた白雪が わくわくと
期待に瞳を輝かせて 立っていた
道場を半分に別け 竹刀を振る者と
身体に負荷をかけた 運動をする者に別け
刻限を決め 交替する事にして鍛練させる
見学者のお陰か いつになく真剣な面持で
鍛練する家臣らを 見張りながら
道場に面した部屋の広縁で
白雪と江介と共に談笑する
「そうだったんだ…
余計な事言っちゃったかな
政宗の鍛練の時間 邪魔しちゃったね」
「鍛練は何時でも出きる
問題はあいつらのやる気だ」
「今日は皆やる気だよ?」
針子達が道場の格子戸に掴まって
誰が良いかと愉しげにじゃれ会う
「お前達の効果でな」
「そうですねぇ…普段からこうなら」
「じゃあ 明日からここを
針子部屋にしたら?」
………かくして
道場の向いに針子部屋を有した伊達軍
本日も道場から威勢の良い男達の声が
こだまするのでありました