第5章 新たなる日々
「そんな物欲しそうな
顔したって駄目だ…
続きは帰ってからな」
返事を待たず
手を取って歩き出す
白雪も大人しく従う
ちらと見ると
空いた方の手の甲で
頬を抑えては
ぱたぱたと扇ぎ紅くなった頬を
覚ましているつもりらしい
(…何だよそれ…可愛いすぎだろ)
思わず足を止めて振り返る
「わざとやってるのか?」
「へっ?」
ぷっ…
間抜けな返答に吹き出す
「…そんな分けないか
…無自覚ほど達が悪い」
「??」
首をかしげ
政宗を見上げる白雪
「…はぁ」
長い溜息を溢した後で
「お前は俺を煽るのが
上手いって事…忘れてた」
唇を掠め取ると
何か言いたげな白雪を無視して
また歩き出す間を置いて
白雪が追いかけて来る
政宗の袖をそっと掴み
そのまま天守へたどり着いた
「失礼します」
政宗の精悍な声が響く…
一拍置いて低くよく通る声に
入れと促され足を踏み入れる
文を手にした
信長が顔を上げる
「やっと戻ったか白雪」
文から手を離し
脇息に凭れ二人に目を向けた
「一年間
京への滞在をお許し頂き
礼を申し上げる
無事…白雪を迎える事が
出来またしたので
奥州へ戻る許可を頂きたい」
政宗が頭を下げると
白雪が隣でそれに倣う
「……白雪…奥州に
飽きたら安土へ来い」
「え?」
「あの…許して…
頂けるんですか?」
「鉄砲玉のお前の事だ
留め置いても行くのだろう
…政宗にしても奥州で謀反を
起こされても面倒だ」
そう言われた政宗が
顔を歪めて笑う
「ありがとうございます」
「お前を龍にして
身に刻んだ女だ
心して掛からねば
取って食われるやも知れんぞ」
「ひっ人を化け物みたいに
言わないで下さいっ」
「くくっ…心しておきます」
男二人はころころと
変わる表情を楽しむ様に
白雪を眺めては笑う
この地で休息と
準備の時間を数日過ごし
奥州へと向かう事になり
政宗と白雪は天守を後にする
「はぁ…緊張した」
「お前が?」
「っ…もぉ!」
「いててっ…」
「こら!廊下でじゃれあうな!」
「あっ 秀吉さん!」
「げっ 秀吉!」
同時に叫び
顔を見合わせると
悪戯っ子さながら
手を繋ぐと一気に走り出した