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イケメン戦国~捕らわれた心~

第21章 闇~秘密の寺(淫獣)~


ごく僅かな家臣と共に
再び妙技庵を訪れた光秀


通された部屋は
むせかえる程に
女の匂いが立ち込めている


「御待たせして申し訳ない」


再び手に入るであろう
金子のせいなのか
それとも今まで行われていた
躾のせいなのか


興奮覚めやらぬ顔の高僧は
額の汗を拭いもせずに
小坊主の用意したお茶を
一気に流し込む


「…随分と忙しいご様子で…
日を改めた方がよければ…」


「いやいや‼
それには及びませぬ
例の女子はかなりの素質でな
あれならば遊び尽くした
手練れでも落ちましょう」


「ほう……
明慶殿が言うのあれば
相当の仕上がりなのだろう」


光秀は別れ際に眼にした
性に蕩けていくお松の
惚けた顔を思い出した


貪欲な光を宿した女の
哀れな浅ましい姿を
脳裏に思い浮かべる


「逢うのが楽しみだ」


「今宵は離れを
用意致したゆえごゆるりと
その身で躾の成果をご堪能下され
家臣の方々は宿坊で
精進料理を堪能頂こう」


そう告げると
紫の袈裟を翻して立ちあがり
光秀を離れへと導いた


長い廊下を歩いて
離れへと向かう


その間も灯りの
漏れる部屋からは
押し殺した声や
啜り泣く様な女の声が
絶え間なく響いている


「……盛況だな」


低い声で告げると
ちらと振り返る


「欲とは消えることのない
恐ろしくも甘美な煩悩ゆえ…
人が人である限り…この地が
絶える事はないでしょうな」


笑っているのか
泣いているのか


分からない表情で答えると
それきり前を見据えたまま


行灯の灯り揺らめく
長い廊下をゆっくりと進む


美しい庭園を望む
離れへと導かれると


辺りには金木犀の
甘い香りが仄かに漂う


「明朝参ります…
ではごゆるりと」


「…ここまで来られたのに
入らずに戻られるのか?」


光秀が訝しげに
明慶を見下ろす


暫しの逡巡の後で
苦く笑うと


「…もう一度…と
思ったのですがな
お恥ずかしながら
もう一度触れたなら…
手放すのが惜しくなる」


「………これは意外な」


珍しく光秀も
驚いた表情を見せる


「ふふふ…あれは
蛇の様な女です
呑み込まれぬ様に…」


高僧はそれだけ言うと
静かにその場を後にする


袈裟の紫色が
闇に溶けるまで


光秀は金木犀の香りと共に
高僧の背を見送った
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