第20章 十月十日~(新たなる日々)
「で…お前…
女達はどうなった」
ふと気になり
聞いてみる
「あぁ…
相変わらずだなあそこは
お前の言うところの
胸くそ悪いってやつだ」
「くそ坊主が
必要な悪か…ふん…胸くそ悪いな」
政宗は顔を歪める
父から家督を譲り受けた際
妙技庵の事を聞かされ
領主として紹介も受けた
気分の悪くなる男だが
下劣も極めると
需要があるから驚く
事実…軍神の様な男は珍しく
戦の最中であっても
それが長引けば男達は
陣中に遊女を引き込んだ
政宗とて
経験がないわけではなく
かつては妙技庵の女達の
手練手管を戦の間に楽しんだ
中には事の最中に
機密を漏らす者もいる
意図的にそうする為
敵陣が息のかかった女を
送り込むのも珍しくなかったが
妙技庵の女の命は守られている
これは言わずと知れた掟であった
妙技庵は
死に値する重罪を犯した者や
知るべきではない事を知った者が
命と自由を引き換えにする
唯一の場所
生きる為に身体を捧げ
妙技庵に守られる
だが妙技庵に身を置きながら
各々の君主に仕える
自由は与えられていた
くそ坊主のくそたる由縁だ
小判と引き換えにそれぞれの
情報を得る場を設け
騙し騙され合う事を容認している
女達は生かされる
という事以外得る物はない
それでも日ノ本に
散らばる妙技庵から
女の姿が消えることはなかった
「あいつらは
生きる方を選んだのか」
政宗は溜息を溢す
「あぁ…なぜか女は
より辛い道を選択する…
死の恐怖や痛みなど
一瞬の事であろうにな」
死にたくないと泣きじゃくる
お松の憐れな姿を思い出す
「惚れてもいない男と
まぐわり続けてまで
生きる事に固執するとは…
生きながら苦痛を味わうのであれば
いっそ死を選べと思うがな」
光秀は
理解出来ないと頭を振った
いざとなれば腹を切ると
覚悟を決めて育った
武士からみれば
女達の選択は理解し難い
「だが…
生きるからには役立って貰おう
明日には奥州妙技庵から
越後妙技庵へその身を移す」
光秀は顎をなぞりながら
女に弱い武将の顔を
数人思い浮かべにやりと笑った