第20章 十月十日~(新たなる日々)
「ふふっ…楽しそうね
お茶の用意が出来ましたよ」
声がすると茶と菓子を手に
白雪と女中らがやって来る
「あぁ…悪いな」
「ありがとう」
茶を受け取り
領地の話しを始めると
女達はしずしずと下がっていく
「白雪…後で行くから先に
夕餉の支度を初めてくれるか
献立は朝決めた通り…
量だけ増やしてくれ」
政宗が
頼み事をすると決って
白雪はぱぁっと
表情を明るくする
今回も例外なく
嬉しそうに頷く
「光秀さんと
家臣の皆さんの分ね」
満面の笑みを
二人に向ける
「簡単な物でいいぞ
腹が膨れればそれでいい」
真顔で応える光秀を
横から政宗が諌めた
「馬鹿言え…この城に来て
もてなしを受けず帰れると思うなよ」
「ふふっ…
じゃあ先に始めてるね」
女中らといそいそと
立ち去る白雪の後姿を
光秀が笑いながら眺める
「白雪の扱いは
手馴れたもんだな」
「…誰より理解してると思うし
これからもそうあるつもりだ」
政宗もまた
穏やかな表情を浮かべ
白雪の背中を眼で追った
「ふっ…まさかお前に
そんな顔をさせるとはな…」
「なんだよ…羨ましいんだろ?」
愉快そうに頬を歪める光秀に
政宗もにやりと口元で笑う
「欲しければ奪うまで…だが
女の様に簡単にはいかないのが
領地と家臣だな……」
女達の姿が
見えなくなるのを待って
光秀が話しを戻す
「戦場での軍神の統率力は
敵ながら圧巻だったが…
それでも領主のやり方に
口をだす家臣がいるのか」
政宗は肩をすくめる
「真偽の程は分からんが
女に興味が無いとかで
跡取り確保の為に甥を
養子にする話があるらしい」
「女に…ねぇ…」
政宗は謙信の
白雪を見つめる姿を
脳裏に浮かべ鼻で笑う
(興味が無い…
じゃなくて失うのが怖くて
手が出せないってとこだろ)
「謙信を隠居させて
その甥っ子を担ぎ上げ
領地の拡大に打って出る腹か」
(それを知って
あの男はどうでるだろうか)
「甲斐武田と常陸佐竹に
越後上杉この三国が
同盟を組むと厄介だな」
光秀は腕を組むと
眉をひそめた
「佐竹には間者を放ってあるが
甲斐の虎と越後の龍は昵懇らしい
結び付きも固いだろう」