第20章 十月十日~(新たなる日々)
「だが重臣連中はそうとは限らん
武田軍と協定を結んだ今…狙うは…」
光秀が真っ直ぐに
政宗の顔に視線を合わせる
「奥州か…」
ため息と共に溢れ出た
自らの言葉が重く耳に響いた
「浮かぬ顔だな…お前なら
腕が鳴ると息を巻くかと思ったぞ」
以前の政宗なら然もあらん
だがこれまでとは違う
それを知った上で
言葉遊びをするように
仕掛けてくる光秀
「あの頃とは違う…悪いが
俺はもう充分に満たされてる」
挑発する光秀を
するりと交わすと
また更なる言葉を
投げ掛けられた
「ほう…あの撫切りを
やってのけた
男の発言とは到底思えんな」
「あれは……」
家督を継いで間もない頃
政宗はこれまでの
慣習を終わらせ
奥州統一への
足掛かりとなる
戦で燐国を戦慄させた
「後悔はしていない
あれがなければ戦を仕掛けてくる
小国は絶えなかったろうし
そうなれば失われる命も
不憫な生活を強いられる
民も増えただろう…」
政宗は噛み締めるように
言葉を発する
「あの決断があってこそ
奥州を統一出来たんだ」
最初に裏切りを
仕掛けたのは向うであったが
敵将は政宗の進軍に
直ぐ降伏を申し出た
しかし政宗はそれを認めず
城に攻め入り城内にあった
女も童も馬や牛…犬に至るまで
すべてを斬り捨てた
そうする事で
自分に敵対する者が
どのような末路を辿るのか
まざまざと見せつけたのだ
その後
政宗が進軍した先では
無抵抗で城を明け渡す者も
少なくなかった
根絶やしにする残忍さが
結果的に多くの命を救ったのだ
「まぁ…あれがなかったら
信長様がお前と同盟を組む
事もなかったやもしれんな」
光秀もふと遠くを見つめ
思い付いた様に口を開くと
自嘲めいた笑みを溢す
「必要な悪もある…ということか
ならば俺にこそ相応しい」
「お前は器用過ぎるんだ
損な役回りだと思うがな」
政宗は光秀の
狡猾さを買っているが
同じ位その懐の深さも
買っていた
「……出来る者と
出来ない者があるなら
出来る者がその役目を
負うべきだろう?」
当然の事の様に言う光秀に
政宗は何となしに
知ったる武将達の顔を
思い浮かべる
「出来る者…か…
まぁ秀吉や三成には無理だな」
二人は顔を見合わせ笑った