第20章 十月十日~(新たなる日々)
「っ…もぉ…二人とも
相変わらずなんだから」
ほんのりと
頬を染めた白雪は
軽く二人を睨むと
お茶の用意をすると
台所へ踵を返す
「からかい過ぎたか」
白雪の後姿を眺めながら
光秀が呟く
「大丈夫だろ…
それより仕事だ」
「……あぁ」
眉をひそめ
長く息を吐きながら
返事をする光秀に
政宗も自然と
眉間に皺が寄る
言葉を交わさぬまま
部屋に向かい襖を開く
床間に飾られた花を眼に
光秀がふっと表情を和らげた
「領主の妻がする事でも
ないだろうに…じっとして
いられんのは性分らしいな」
淡い色調で揃えられた
大小の美しい花々が
憂い顔の男達を出迎える
「へぇ…見ただけで
白雪の活けた物と分かるのか」
政宗がちらと
顔に視線を送ると
「そらくらい分からぬでは
信長様の参謀は務まらん」
澄ました顔でそう言って
花の眺められる位置に座した
青葉に暮らしてからも
安土の頃と変わらず
縫い物をしたり
花を活けたり
台所に立ったりと
およそ姫らしくない白雪に
戸惑っていた城の皆も
今ではすっかり馴染み
まるでここで生まれたかの様に
すんなりとけ込んでいる
そんな気配を察したのか
光秀が穏やかに笑う
「世話焼が心配していたが
何の問題もないと話しておこう
信長様にも報告せねばな」
「おぅ…白雪は何の心配もない」
にやりと返す政宗に
一変して表情を曇らせた光秀
「しかし…戦となれば話は別だ
単刀直入に言うが…
越後がきな臭い動きをしている」
「軍神か…」
戦場で交わした
軍神との会話が
政宗の頭をよぎる
(全力のお前としか戦いたくない
次は女子なぞ連れてくるな…か…
もう次を仕掛けてくるとは)
が光秀の口から出たのは
以外な言葉だった
「否…軍神は絡んでない
動いているのは恐らく家臣単独」
独自の筋から得た情報を
光秀が続けて話す
「その才を買われて
担ぎ出されたはいいが
そもそもが権力に
興味が無いのだろう…
軍神自ら領土拡大に
動いた事はないと聞いてる」
政宗は夏の日に
一存で動いた部下を斬って捨て
政宗に詫びる姿を思い返す
「…確かに
そんな感じだったな」
(あの眼に
そんな野心は感じなかった
むしろ死場所を探している様な
危うさが垣間見える…)