第20章 十月十日~(新たなる日々)
「はい…いや…明智様からの…」
はっきりしない家臣に
思わず眉間に皺を寄せた
「なんだ?」
政宗の険しい表情に
はっとした様に姿勢を正し
早口で一気に捲し立てた
「明智様からの報せですが…
明智様本人様がお見えです」
「なに?」
「えっ…光秀さん来てるの?」
驚く政宗
白雪と目を瞬きながら
顔を見合わせる
「はいっ…
今しがた到着されましたっ」
二人は
急ぎ光秀の元へ向かうと
光秀は下女らに
足を洗わせながら
喉を潤していた
「光秀…来るなら
先に早馬を寄越せ…唐突な奴だな」
姿を認めるなり
思わず文句を言う政宗に
光秀が喉を鳴らして笑う
「お前…
だんだん秀吉に似てきたな」
「馬鹿言え…俺はもてなしの
準備が出来ないから言ってる
あの堅物と一緒にするな」
政宗は憮然とした表情で
光秀を見下ろした
「もてなしなど不要だ
水があれば充分だろう
それより白雪…変わりないか」
政宗の後から
様子を伺う白雪に向け
穏やかな笑顔を見せる
「はい!光秀さんも」
微笑む白雪に
眼を細める光秀
「悪いがあいつらも
休ませてやってくれるか」
まだ外に数人の家臣の姿があり
彼らは政宗の姿を認めると
膝を付いて頭を垂れた
「当たり前だろ」
政宗は外に向かって
明るく声をかける
「遠慮は無用だ入ってこい
今夜は旨いもん食わせて
やるから期待していいぞ」
政宗の言葉に
彼らも顔を綻ばせ
口々に令を言うと光秀同様に
渇いた喉を潤した
その間に
光秀は下女に令を言うと
政宗と小声で言葉を交わす
それから振り返り
白雪に向けて声をかけた
「早速だが白雪…
少し政宗を借りるぞ」
「お仕事ですか?
後でお茶をお持ちしますね」
「あぁ…悪いな」
光秀は薄く笑うと
政宗と共に歩き出す
ふと政宗が
思い付いた様に立ち止まる
「何時もの部屋で会議だ
茶の用意はいいが…重い物は持つなよ」
「ふふっ…本当に秀吉さんみたい」
「ほらみろ
女房が言うんだ間違いないな」
白雪を甘やかす政宗を
意地悪く笑う光秀
「あいつのは
誰かれ構わずだろ
俺の世話焼きは
白雪に対してだけだ」
堂々と
宣言する政宗
「だ…そうだ白雪
よかったな…存分に
世話を焼かれるといい」