第20章 十月十日~(新たなる日々)
数週間後
澄んだ空には
蜻蛉が群れをなし
秋色に空気を染める
風が通る度に
黄金色に染まった大地が
さざ波をたてて煌めく
「綺麗…」
菊模様を配した
鶸色の着物に身を包み
結い上げた髪を紅葉色の
組紐で飾った白雪は
天主からの眺めに
溜め息を溢す
「見事だろ?数日中には刈り込みだ
この景色が見れるのは今だけだぞ」
「凄いね…
今年は今までより
稲作の地域を増やしたって聞いたけど」
「約束したろ?
変わっていく奥州を
俺の一番近くで見せるって」
「あ…覚えてて
くれたの?…嬉しいな」
そう言ってふにゃりと笑う
「当たり前だろ」
白雪から時々耳にする
未来での暮しは豊かなものだ
500年後の
泰平な世の礎に
この乱世でも
出来ることはあるはず
この地は
海も近く大きな川もあり
土地は肥大で作物も良く取れる
それを他国に売却できれば
河川の整備や街並の整備
防風防雪の植樹の資金に困らない
民を守る地盤が盤若となれば
更に多くの作物が取れる
今までは戦により
兵力に取られていた
農村の若い衆も
信長の常備兵の政策により
農業に従事することが可能となり
戦での工夫は必要だが
国としての生産率は鰻登りだ
「この地を日ノ本一
美しい都にする…水と緑と
人々の笑顔溢れる都だ」
眼下に輝く
黄金の海を眺めながら
力強く己に誓う
「うん…」
白雪がそっと寄り添い
その温もりを移す
「その為に仕事をしなきゃな
暫く忙しくなる…あまり
構ってやれないが…落ち着いたら
たっぷり可愛がってやるから
いい子にしてろよ?」
「ふふっ…分かってる」
二人の間を吹き抜けた風が
青黛色の羽織を翻した
「大丈夫ちゃんと待ってるから
この子と一緒に」
まだ膨らみのない腹にそっと
大きな手を伸ばす
政宗の脳裏に
赤子を抱いた白雪と共に
この景色を眺める
自分の姿が浮かんだ
「あぁ…次の秋には
もっと凄い景色を見せてやる」
満足そうに微笑む政宗と
愛おしげな視線を送る白雪
「失礼します」
家臣の声に
二人が振り替える
膝まずいた姿勢のまま
政宗の言葉を待つ家臣
そろそろ
隣国の動向について
報せがある筈と
こちらから聞いてみる
「光秀からの報せか」