第20章 十月十日~(新たなる日々)
無自覚ほど
性質が悪いと思いつつも
柔らかな唇に
引寄せられる
「…んっ…」
思考を停止させる
甘やかな時間は
政宗にとって全てから
開放される僅かな休息であり
今ではもう手放しがたい
何よりの宝だ
光秀から届いた国堺の
不穏な気配を示唆する文が
頭の隅を嫌な色に染め
抱く腕に思わず力が入る
「…政宗?何かあった?」
戦への懸念と先刻の
白雪の本音…かもしれない
言葉に揺れている心を悟られた
こんな時の
白雪は勘が冴える
下手な誤魔化しは
得策では無いと
誤魔化さずに
一方の本音を告げる
「…なぁ……
お前も寂しいか…故郷を離れて」
戦の事は
はっきりするまでは
耳に入れたくなかった
白雪の事だ…
不安を隠しきれず
顔に出るに違いない
不安は伝染する
城の女達が狼狽えれば
家臣達も煽られる
白雪にはまだ
身重の身体で城を守る
そんな大役は無理だろう
光秀が早々に動き
手を打って廻っているのは
無論…信長の命であろうが
白雪の身を考慮しての
事かもしれなかった
「え?…あぁ…さっきの?
ううん…私は大丈夫…
私には政宗がいるもの…
大好きな人がいるのに
寂しいなんて思わないでしょう?」
ほわりと頬を染め
政宗の腕に身体を預ける
望んだ通りの
答えに胸のつかえがとれ
安堵感が一斉に広がっていく
独眼竜と畏怖される身を
言葉一つで容易に
打ちのめす事が出来るのは
この世でただ一人だと秘かに思う
「それに
もう一人じゃないし」
そう言うと
ふにゃりと笑って
大事そうに腹を撫でる
「そうだな…俺達の…」
手折れそうな程華奢な
腰の中に自分の子がある
実感は湧かないが
そう考えると胸に
熱いものが込み上げる
広がった安堵が
幸福の確信へと変り
締め付けられていた心が
ほんわかと暖かくなった
「まぁ…俺と居るんだ
寂しいなんて考える暇もない程
目茶苦茶に可愛がってやるよ」
取り戻した自信を態度で示す
偉そうに笑って口付けた
白雪はくすくすと
笑みを溢しながら
小鳥の様に
政宗の腕の中で遊ぶ
いつ奪われるとも知れない
安息の日々を慈しむ様に心に刻み
永遠に続くよう願う
その為の手段は選ばず
喩え一時の恥となろうと
生き延びる戦略を
頭の中で構築すると誓う