第20章 十月十日~(新たなる日々)
百面相をしながら
自分の為に時間を使う白雪が
愛しくて仕方ない
けれど同時にこうして
政宗の視線に気付く事なく
手元の仕事に没頭されるのが
寂しい様な悔しい様な気もする
複雑な想いのまま
白雪に声をかけた
「楽しいか…それ…」
「…え?」
ぽかんと
政宗を見上げる白雪
「楽しいかって聞いたんだ」
政宗は首を傾げて
白雪の顔を覗き込む
「楽しい…?…うん…まぁ」
「同じ事の繰返しで飽きないか?
着物の形はどれも同じだろ…」
「それはそうだけど…」
白雪は困った様に
縫いかけの着物に視線を落とす
「前に描いてた南蛮の衣服…
あれを作らせた時は針子達も
作っていて楽しいと言ってた
今度…南蛮の布を手に入れてやる」
「本当に?楽しみ」
白雪が期待通りに
ぱっと華やいだ
表情を見せるから
政宗は嬉しくなる
「…でもね…全部が全部
同じって訳でもないの…
着る人によって微妙に違うのよ?」
「そりゃあ…体格によるだろうが」
政宗が
肩をすくめて見せると
「そうじゃなくて…例えば」
白雪は
手元の着物を畳の上に
形が分かるように広げた
「政宗は普段は右利きだけど
刀を振るう時は左腕をよく使う
構える時も左腕が上だし…」
「…あぁ…
見えない右側は狙われ易いんだ
右側に隙が出来ない様に鍛練してる」
そう言って意外な
発見をした様に白雪を見る
「お前…
剣術も学んでないのに
良く気付いたな」
自分の些細なことでさえ
知ろうとする白雪が
いじらしくて
胸に苦しさを覚える
「ふふっ…使う人の事を
考えて作るのが楽しいの」
白雪が広げた着物の
肩を指でなぞる
「政宗のは左肩を特に
丈夫にしてるし…羽織りの
邪魔にならないように
襟の形も工夫してあるのよ」
白い指先が
青黛色の着物の上を
滑らかに滑る様子に
政宗の胸が俄に騒ぎ出す
自分の為に作られる着物を
愛撫する様になぞられて
腰がゾクリと疼いた
白雪はまるでそこに
政宗が見えているかの様に
艶の籠った眼で
縫いかけの着物を見つめ
柔らかく手を運ぶ
「誘ってんのか…それ」
「え?」
きょとんと目を丸くする
白雪に溜め息を溢す
「はぁ…なんでもない…
ったく…本当にお前は…」