第20章 十月十日~(新たなる日々)
青葉城内は
婚儀の余韻を残しつつも
次第に静寂を取り戻しつつあった
伊達家重臣達も
それぞれ任された
領地の城に戻り
安土の面々も
各々の城へと旅立ち
静かな朝を迎える
政宗は婚儀に際して
祝いの品や文を寄越した
大名や親戚筋に
令状を認めていた
「政宗…ちょっと動かないでね」
「…ん……どうした」
「仕上げの前にちょっと確認」
白雪が政宗の背に
縫いかけの着物を宛がい
満足そうに呟く
「うん…いい感じ」
政宗は首を捻り
肩口に見える青黛色に気が付く
「この前の…母上からの反物か」
「うん…そう
今日中に仕上げたいなと思って」
「お前…
あまり根を詰めるなよ」
「ふふっ大丈夫…政宗もね」
二人は微笑み合い
再びそれぞれの手元に視線を戻す
「…そういえば…
安土から来た女中…二人程
やはり安土に戻りたいって話だな」
政宗はなるべく
何でもない事の様に
光秀に任せた
二人の事を切り出した
「あ…うん…喜多から聞いた
やっぱり故郷を離れて…不安だよね
私は…政宗さえ良ければ
国に帰してあげたいな…」
何も知らない白雪が
二人を気遣う
「そう言うと思ってもう帰した」
「えっ?もう?」
ぱちぱちと瞬いて
驚いた顔で政宗を見上げる
「当たってたろ」
政宗は余裕の笑みで返す
「それは…そうだけど
お別れくらい言いたかったな」
残念そうに肩を落とす白雪に
政宗は取って付けた様な
言い訳を述べた
「女だけは無用心だろ
光秀達の一行と共に出立したんだ
仕事の都合で急な出立になったが」
苦しい言い訳に内心
舌打ちしたい程だったが
幸にも素直な白雪は笑顔で頷いた
「そうなんだ…
確かに光秀さん達と
一緒なら道中も安心ね」
「あぁ…」
すんなりと
居なくなった女中の話が終り
ホッとしながらも
先程白雪の口にした言葉に
引っ掛かりを覚える
(…こいつさっき故郷を離れて寂しい
って言ったよな…寂しいって…)
何気ない会話の中で
本心が垣間見えた気がして
じっと様子を伺う
白雪は手元に集中しているのか
政宗の視線に気付く事なく
黙々と針を進めていく
いつになく真剣な目元に
思わず見惚れる
時々眉を寄せたりして
表情を変えながらも
真摯に手元の針と向き合っていた