第19章 闇~秘密の寺(開門)~
「仕上りを見るのが楽しみだ」
息の荒くなる小坊主を
面白そうに眺めながら
そう口にした光秀に
「夏野…であったか…
もう一人はいかがされる」
小坊主の白衣と腰衣の間に
手を滑らせながら明慶が聞く
光秀は少し考える様な
素振りを見せた後で
「ふん…
お松の貝合せに使えれば
それで充分なのだが……
何か面白い案でも?」
顎に手を当て聞き返す
「ほう…そういう事であれば…
男がなくとも満足出来る
身体にして進ぜよう」
明慶は澱んだ眼を
怪しく光らせ口を歪めて笑う
濡れた女の嬌声に混じり
少年の鳴き声が部屋に響く
ひと月後に迎えに来ると
約束を交わした光秀は
少なくはない小判を置いて
この地を後にする
まるで今しがた見たものが
夢であったかの様な
森の静寂に
何故か少しホッとする
「光秀様…
お疲れのご様子ですが」
家臣が心配そうに
光秀を覗き込んだ
「大事ない…
今夜の事は他言無用ぞ」
「っ…御意‼」
家臣達が静かに答えた
群青の空に浮かぶ三日月を
淡色の瞳に写し
疾走する
政宗…使える駒は
多いに越した事はない…
敵が多ければ尚更だ
…この駒は使えるぞ
誰にも聞こえない声で
そう呟くのだった