第19章 闇~秘密の寺(開門)~
部屋の中を覗くと
膳が用意されており
青菜を刻んだ粥と
漬物が装われていた
空腹など
感じていなかった筈なのに
現金なもので
湯気をあげる椀を
目にしたとたん
ぎゅるぎゅると
盛大な音をたてて
腹の虫が騒いだ
「…身体は正直だな」
光秀に一瞥され
真っ赤になって俯く
「…すいません」
「…早く食え…冷めるぞ」
光秀は部屋には入らず
入り口を背に廊下に腰を下ろす
お松は部屋に入り
膳の前に座ると
遠慮がちに
匙を手に手を伸ばした
一口流し込むと
米の香りと甘みが
口中に一斉に広がる
「……美味しい」
それはこれまで食べた
何より美味しく感じて
訳もなく涙が溢れ
お松は嗚咽を
溢しながら粥を啜る
「…泣いたり食べたり
…まったく忙しい女だ」
「ふっ…すいま……せん…ふぇっ」
泣きながら粥を頬張るお松を
呆れた様に眺めながら
この生への執着が
この女の行く末を決めると
静かに考える光秀
椀が空になるまで
そう時間は要さなかった
綺麗に平らげて
一息つく
顔色も良くなり
身なりも清潔になって
来たときよりは
見られるようになったお松
光秀は改めてお松を眺め
部屋に入ると正面に座した
「……落ち着いたな」
「あ…はい」
その様子にお松も
居ずまいを正し座り直した
「これからお前の
選択肢の話をする」
「せん…たくし…」
おうむ返しのお松に向けて
光秀は静かに口を開いた
「選ぶ道は二つ…生か死か
お前は死にたくないと叫んだ…
故に連れてきた…だが
只今までの様に
生きられはしない
それは分かるな?」
お松は黙って
首を縦に振る
「ここは妙技庵
身体と技巧を磨き抜いた
女だけが生き延びる」
光秀の唇が
ゆっくりと引き上げられた
美しい顔に
冷笑をを浮かべて
お松に向けて
問いかけた
「お前は生きる為
男に脚を拡げられるか」
衝撃に言葉を失う
武家に産まれ
一通りの
花嫁修業をこなし
城女中を勤めた自分が?
下賎の女のごとく
男に脚を拡げて媚を売る?
「で……きま…出来ません」
震える声で答える
「ならば死ね…
独眼竜の逆鱗に触れたのだ
大人しく首を差し出すがいい」
「そ…んな…」
「一つ教えてやろう」