第5章 新たなる日々
鈴の様な愛らしい声に
胸を鷲掴みにされる
振り返ると映るのは愛しい笑顔…
「ただいま」
笑顔で答えると
少し離れた所から
白雪がうずうずとした顔で
見つめてくる
(ふっ…本当に分りやすいな…可愛い)
招き入れる様に
両手を広げてやれば
嬉しそうに駆け寄って来る
トンッ…確かな手応えと共に胸に抱く
途端に鼻を擽る梔の様な甘い匂い
「いい子で待ってたか?」
偉そうに笑い顎を掬うと
政宗の着物をぎゅっと掴んで
頬を染めか細い声で言った
「…うん いい子で待ってた」
(可愛いすぎる…なんなんだよ その返事)
そのまま唇を奪う
後ろから首を押さえ
強引に口付ければ
白雪の躯は
政宗の熱に答える様に
熱を上げ甘い吐息は
政宗の耳を溶かしていく
「んん…まって…ここじゃ…あっ」
小さな望みを無視して
心ゆくまで唇を味わい尽くす
白雪が溶けきった頃
やっと唇を解放してやる
とろんとした眼で
見上げてくる白雪の顔に
見て取れるのは
政宗の愛を乞う
女の表情だけ
腕を取り部屋へと誘う
出立の準備の為
片付けられた荷の中で
一部広げられた物に気が付く
「あれが 買ったやつか?」
「…あっうん
ありがとう買ってくれて」
「…それはいいが…少なくないか?」
「そんなことないよ
必要なだけ買わせて貰ったよ」
そうは言うが
広げられた荷以外に
白雪の持ち物はない
一年前の荷は
安土城に置いたままだ
「これじゃ足りなくなるだろ?
どうせ用意するなら
良いものが多い京都の方が…」
「いいの
確かに京都の織物は素敵だけど
政宗の故郷で揃えたい
奥州で買う方が
奥州の人が潤うでしょう?」
瞬きして白雪の顔を
まじまじと見る
呑気な顔で
笑っているかと思えば
また予想外なことを口にする
確かに奥州で揃えれば
城下の者は喜ぶだろう
政宗自身なるべく自らの
治めている土地で
物を揃える様にしている
「お前…いい女だな」
政宗の言葉に
さっと顔を赤らめて
荷をまとめ始める
手際よく進めながら
「もうお仕事はいいの?」
期待を込めた顔で
聞いてくるのが
堪らなく可愛くてにやけてしまう
「あぁ 今日で全て終いだ
明日には安土へ向け出立する」
「じゃあ今日は一緒に居れる?」